文春オンライン

若手俳優で浪費する女――「インターネットで言えない」オタク女子の果てしない浪費の実態 #3

『浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―』

note
©iStock.com

 だけど、彼はなんと翌週私のあげたマフラーを着けてブログにアップしてくれたのだった。黒いシンプルなマフラー。端の部分によく見るとワンポイントタグが付いていて、それが可愛いなと思って購入したのだけど、見事にそのタグが見えるような形で彼はそれを着けてくれていた。そのブログには「プレゼントありがとう」なんて一言も書かれていなくて、何も知らない人が見たらこのマフラーは普通に彼の私物だと思うだろうな、という感じだった。プレゼントを貰ったことをきちんと公言する人、貰ったものは一切身につけない人、色んなタイプの俳優がいるけれど、彼はこうやって無言で受け取りましたのサインを出してくる人なんだな、と理解した。よく考えるといちばん厄介なタイプである。でも、彼のファンがツイッターで「今日の○○くんのマフラー可愛い~」なんてツイートしているのを見て、それ、私があげたやつだから、なんて、マウント取った気持ちになれた。まぁ、同様に私が「えっ今日の○○くんの着てるニット可愛い!」とか思っても、それも誰かが彼にあげたプレゼントなんだろうけど。

 初めてのプレゼント以降、彼は私のあげたものはほぼほぼ何でも使ってくれた。服だけじゃなく、ランチョンマットを贈れば自炊した写真にさりげなく写り込ませるし、スニーカーを贈れば足下の写真を撮ったりするし。贈れば贈った分だけ報われるのが嬉しくて、私が彼に贈るプレゼントのグレードはどんどん上がっていった。最初は「予算は5000円まで」と決めていたのに、2万円のニットを贈ったらそれを雑誌の私服取材やインタビュー映像で何度も着てくれて、更に倍の値段くらいするアウターを贈った時は地方公演に持っていって連日着ているところをSNSにアップしてくれた。私はとにかく快感で仕方なかった。「何を贈っても絶対に使ってくれる」という心の余裕が生まれると、今度は逆に「彼が好きそうなもの」ではなく「私が思う彼に似合うもの」みたいな選び方になってきて、それを着た彼の姿が私の理想ぴったりだと「うんうん、私の目に狂いはなかった」みたいな、美少年を愛する年老いたパトロンのような気持ちになってきて。

©iStock.com

 でも、ある日を境に私は彼にプレゼントを贈ることをパッタリやめた。あらかた贈り尽くしたし、あらかた着てもらえ尽くしたな、という謎の達成感が芽生えたからだ。また、別の方法で彼に貢献できる方法を思いついたからでもある。(って書くと怪しい匂わせのように見えるけれど、別にそういうつもりはない。粛々と彼の出演舞台に通うことが一番の貢献だなと思い改めたのだ。)

ADVERTISEMENT

 私が2年間で彼に贈ったプレゼントの総額は、合計約30万。熱病に浮かされたかのようにプレゼントを贈り続けていたけれど、彼のことを思ってプレゼントを選ぶ日々はすごく楽しかった。もしかするといつかまた、この熱が再発するかも知れない。その日のために、今日も私はメンズブランドの流行りチェックを欠かさないのだ。

若手俳優で浪費する女――「インターネットで言えない」オタク女子の果てしない浪費の実態 #3

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー