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可燃ごみ内グラスで手が血まみれに…清掃員が体感した「日本人のマナー」のリアル

2020/10/22

source : 文藝春秋 digital

genre : ライフ, ライフスタイル, テレビ・ラジオ

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23区内でごみを見てきた私の知る限り……

「出されるごみの分別方法は年々悪くなってきています。単身者向けの賃貸アパートや集合住宅はその傾向が顕著です」(栃木県30代女性)

 このアパート、もしくはこの地域のごみ出しマナーが悪くなっていることが読み取れるコメントだ。私は、恐らくこの30代の女性は同じ地域を回っている常勤(毎週、同じ地域のごみを回収する勤務形態)の方ではないかと想像した。

 私は現在、非常勤の清掃員として働いていて、その日によって回収する場所も、回収するごみの種類も違う。23区内で様々な地域のごみを見てきた私の知る限り、ごみ出しのマナーが悪い地域は年々悪くなるし、綺麗にごみ出しをしている地域はどんどん綺麗になっていく現実がある。

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 ごみ出しマナーの格差が広がっている事は確かではあるが、日本全体でごみ出しのマナーが悪くなっていることとは別の話である。

 コロナ禍において、分別をきちんとする地域と、しない地域の格差は分かりやすく広がり、分別をあまりしない地域を担当している清掃員が溢(こぼ)す愚痴は気の毒になるほどよくわかる。「集積所が汚い場所イコール治安の悪い場所」とは限らないが、一般的に治安の悪いと言われている地域はごみ集積所が汚いことが多い。集積所はそこに住んでいる人たちのマナーを測るひとつのバロメーターと言えるであろう。  

 その一方で、私がこの8年間で感じているのは「ゴミは伝染するもの」だということ。ごみ出しルールをきちんと守って出す人も、集積所で皆がルール違反のごみを出していれば、次のごみ出しから自分もルールを守らなくていいやと思うのが人間である。逆を言えば綺麗なごみ出しをしているところに自分だけルール違反のごみを出すのも勇気がいる行動である。綺麗な道端にポイ捨てしにくいが、ごみだらけの所には何の躊躇もなくごみを捨てられるのと似ている。

清掃員ですら目から鱗の「配慮」

 とりわけ私がここで伝えたいと思うのは、しっかりとルールを守り、さらには社会をより良くしようとしているように見える主婦の方々のごみ出しのことだ。

 きちんと朝のごみ出し時間も守り、集積所で清掃員に“お疲れ様”と一言労いの声を掛け、ごみを回収した後の集積所を綺麗に保つために掃除をする。その集積所の各家庭から出されるごみを見れば、竹串はごま油の使い終わったペットボトルに入れ、清掃員に刺さらないように配慮されている。油などが入ったペットボトルは、ペットボトル自体に油が染み込んでいるので、資源にならない。資源に再利用できないペットボトルを最後まで利用してごみを出していることには、清掃員である私ですら目から鱗だ。

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 こういうごみが出ている地域は不思議とごみ出しのマナーがきちんとしている人が多い。

 私は様々な地域のごみを回収してきたが、傾向としてペットボトルのラベルをきちんと剥がして出している地域は他のごみ――可燃ごみや不燃ごみ、または古紙やびん、缶など――も綺麗に出していることが多い。よくよく考えてみればそうだ。ペットボトルだけ綺麗になっているのに急に可燃ごみだけ汚く出すことはあまりない。