元CAの看板だけでは続けられない
しかし「元CAの看板だけで続けるのは難しいはず」と石原氏。
「マナー講師は、人に教える能力やプレゼン力など、CA時代とは違うスキルが要求されます。元CAの看板で講師をはじめたはいいものの、実際に活躍できる人はほんの一握り。
もしかしたら、人気力士が引退後にちゃんこ屋を開く、セカンドキャリアの成否と似ているかもしれませんね。店をオープンした直後は人が来るけど、その後も店が続けられるかは別問題。
同じように、マナー講師も個人の能力が試されるかなりシビアな世界のはずです」
一説では、CA出身のマナー講師が増えた背景に2010年のJALの経営破綻など、航空業界を揺るがすトピックスが関係しているのでは、という指摘もある。
このセオリー通りにいくと、新型コロナで大打撃を受けて窮地に立たされたCAたちが、マナー講師に転向する可能性も考えられるが……
「今現在、転職を考えている人もいるかもしれませんが、“マナー講師”が選択肢に入るかどうかは疑問です。やはり中途半端なスキルやメンタリティで続けられる仕事ではないので、コロナ禍でも『会社に残ってほしい』と思われているような人のほうが、マナー講師には向いているのではないでしょうか」
以前は茶道家や華道家がマナーを指南
今でこそ、元CA=マナー講師というイメージは定着しているが、それもここ10年前後のこと。以前は「茶道、華道の先生がマナーに携わっていた」と、石原氏は語る。
「マナー講師の元祖ともいえる存在は、茶道家の塩月弥栄子さんではないか、と考えています。塩月さんは『冠婚葬祭入門』という書籍を1970年に出版し、ベストセラーにもなりました。この本をきっかけに、漠然としていた日本の“冠婚葬祭マナー”に一応の指標が示されたんです」
『冠婚葬祭入門』はシリーズ化され、塩月さんの提示するマナーが広く知れ渡った。同書のヒットには、時代背景も大きく関係しているという。
「1970年は、高度成長期の真っ只中。日本が豊かになり、多くの人が結婚式やお葬式をきちんと行うようになった時期でもあります。昔は土地や家系のしきたりに則って冠婚葬祭を行っていましたが、都会に住むサラリーマン家庭にはしきたりがない。都会の人々にとって、塩月さんの『冠婚葬祭入門』は、ひとつの答えになったようです」
そして、著者の塩月弥栄子さんが茶道家だったこともあり、以来、茶道家や華道家が現代で言う“マナー講師”の役割を果たしていたとか。