男子校で「多様な価値観」を教えられるか?
多くの私立校の授業見学に行っている、30代の教育関係者がいう。「ある男子校で、各生徒が覚えた英単語の数をグラフ化していたんです。先生が『男の子は競争やコンプリートが好きだから、こうやると効果がある』とおっしゃっていました。よく男子校は序列の世界だといわれます。勉強にしろスポーツにしろ、競争に勝った生徒が上という価値観が支配していると。しかし、そういう環境で育った生徒は将来、社会で競争や序列にさほど興味がない人たちと出会った時に、きちんと相手を理解できるのでしょうか」
男子校では、どうしても男子特有の価値観が純化されやすい。それは悪いことばかりではない。たとえば、競争や序列が支配する校風は、学力を伸ばすのに有利になろう。ただ、この価値観が改革の足かせにもなるだろう。
男子校は今後どう変革すべきか。江原由美子教授はこう言う。「女性は10代の頃からキャリアだけではなく、家庭をどう築くかなど多様に物事を考えなくてはならない。それはしんどいことなんですが、そのしんどさに価値があるのではないでしょうか。一方、これからの社会は女性だけではなく、外国人など多様な人たちとも共存していく時代です。そういう中では、男子校でも生徒に多様さを教えることを期待したいです」
男子校に望まれる「多様な価値観」を教えることと、学力を伸ばし、難関大学に進学させることはやはり相反する部分がでてくる。
「異性の目がないから自由に物がいえる」
一方で、男子校の良さは学力を伸ばすことだけではないのも確かだ。
兵庫県の灘中学校・高等学校出身の和田秀樹さんはこう話す。「僕は今でも率直に発言をします。それは灘で過ごしたからだと思います。異性の目がないから自由に物がいえる環境でした」
男子が伸び伸びとふるまえ、好きなことができるのは確かに男子校の良さだろう。たとえば、男子のシンクロナイズドスイミング(現在はアーティスティックスイミングと名称変更)を描いた映画『ウォーターボーイズ』(2001年・東宝)は埼玉県立川越の水泳部がモデルだ。また、開成の俳句部は名門で、俳句甲子園で11回優勝し、数多くの俳人を生み出している。
シンクロや俳句は、共学の「バスケ部の男子はかっこいいと見なされ、女子からモテる」といったスクールカーストがある世界では追求しにくいだろう。
時代遅れだという声があがっても、中学受験の難関度の上位には今でも男子校が並ぶ。大学合格実績だけではなく、卒業生たちが活躍する姿が評価されている証拠でもあろう。
思春期にやりたいことに集中し、自由にふるまえる。それが将来の糧となる。その長所を失わずに、どう時代の変化に対応していくか。今後の男子校教育の行方に注目したい。
参考資料
『2013年入試志望者動向~2012年7月 志望校調査より~』
『2020年入試志望者動向~2019年6月30日 志望校調査より~』
2013年中学入試予想R4一覧 2012年7月18日発行
2021年中学入試予想R4一覧 2020年9月17日発行 以上、日能研
※なお、各中学の偏差値は法政第二が2月2日午前受験で、他は2月1日午前受験のデータである。
◆◆◆
今回は“男子御三家”と呼ばれる、麻布・開成・武蔵の3校の校長に「いま男子校教育を行う意味とはなにか」を尋ねるアンケートを送り、全校から回答を得た。各校の回答全文を、下記にまとめた。“これからの男子校教育”を考える上で、参考になるはずだ。(読みやすさを考慮して、適宜改行を加えた)