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「女性に対する偏見を育てる」という批判も…男子校は時代遅れなのか? “御三家”の校長に聞いてみた

2020/12/02

genre : ライフ, 社会, 教育

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Q2:貴校では女性をどういう存在だと教えていますか。たとえば、ある男子校では「受験でも就活でも女子の方が優秀。そういう人たちに負けないようにするためには君たちは頑張らないといけない」と教えていったといいます。

麻布(平秀明校長):

 学校として統一した見解を定めてはいません。

 

 ただし、すべての教職員は、男性と女性は互いに社会を構成する大切なパートナーであり、将来、家庭を築き、次世代を育んでいくために自分とは異なる性に対しても理解と敬意をもって接するように指導しています。生徒も、将来は家庭においても職場や地域においても男女が協同し、家事や育児、仕事や社会生活に共同で参画し、つくりあげていくことを当然のことと理解しています。

 

 本校は創立以来、男子の普通教育を実施していますが、創立者である江原素六先生は、静岡県で私立の高等女学校を設立し、帝国議会の議員となった後も男女同権の思想のもと、廃娼運動など女性解放の活動に取り組んだ方でした。本校の生徒は中学入学直後に、創立者のそのような事績についても学ぶので、それが彼らの女性への見方、対し方に大きな影響を与えていると思われます。

 

開成(野水勉校長):

 男性・女性という枠組みにとらわれることなく、それぞれの個性を尊重することを、肝要ととらえています。加えて、性差の問題一つとっても、現在では「男性」「女性」という枠組みだけでは、個々の人権を尊重できなくなっています。多様な性的個性について尊重し、お互いを認めあえるような環境を目指して、本校でも、勉強会・講演会などが行われています。

 

 日本では、歴史的な背景や戦前教育の影響から、男性偏重社会が根強く残り、男女共同参画社会へ向けた取り組みが、大変遅れていることは明らかです。生徒には、そのことを十分に理解・認識した上で、「男性」「女性」、「勝ち」「負け」といった二項対立ではなく、多様な「個」を尊重し、協力しながら社会におけるリーダーシップを発揮する人材となってほしいと思っています。

 

武蔵(杉山剛士校長):

 本校の校風ですが、旧制7年制高校が前身であったこと、戦後においても旧制高校からそのまま新制高校に移管したことなどにあるように、創立以来、アカデミックでリベラルな校風を保っています。したがって、例えば生徒も教師のことを「~さん」付けで呼ぶように、互いを人として尊重し合う風土を保っています。生徒間においても、多様性を尊重し、他者に対し寛容である風土も、本校の大きな特色だと思います。

 

 私自身も校長着任以来「人権感覚」ということを常に生徒に呼びかけています。「人として大切にすること」「人として大切にされること」を生徒には訴えています。「女性をどういう存在だと教えていますか」ということですが、「男性だから」とか「女性だから」とかいうことではなく、「人として大切にすべき存在」だと認識しています。

Q3:保健体育授業以外での性教育はありますか。女子校の場合は「簡単に身体を許してはいけない」と教えるところもあるようです。

麻布(平秀明校長):

 保健体育授業以外での性教育はあります。

 

 必修授業の高校1年「生活総合」(家庭科)では「女性と妊娠・出産」「育児」「ジェンダー」を扱っており、その中で教えています。生徒はたいへん真面目に取り組んでいます。

 

 また、同授業では、20年以上にわたり、夏休みに10テーマ以上の中から1テーマを選択する体験学習を課しており、その中には必ず、性にまつわるテーマ(「新しい時代の女性の良きパートナーとなるために」:定員40名等)を設けています。生徒は指定された講演を聴いて、自ら調査し、レポートを提出します。これについても、生徒は意欲的に取り組んでいます。

 

 また、本校独自の高校1年生、2年生を対象とした必修選択授業「教養総合」で性教育を取り扱うことがあります。昨年度は「性について考える」というテーマで学外から8名の講師をお招きし、生徒は8週間にわたって多様な角度から性について探求を深めました。授業のねらいは「自身の性にはじまり、他者、社会へと視点を広げる中で、性の問題を掘り下げていきたい。日頃、言葉にしづらいこのテーマについて、まじめに考えるきっかけがほしいという人の受講を期待している。」で、授業構成は、(1)「性」について対話しよう(2)性教育と学校(3)思春期男子の性教育(4)性の多様性~基礎の基礎~(5)男子と同性愛~近代社会と性~(6)男女別学(7)海外の性教育(8)まとめのワークショップ、となっています。30名の生徒が受講しました。

 

開成(野水勉校長):

 保健体育の授業以外に、性教育をシステム化して行うことはしておりません。ただし、性の問題は、思春期の生徒たちにとって避けて通れない問題です。「性」について考える機会は、他校生と交流するような行事はもちろん、家庭科・公民科・国語科等の授業や、生活指導の場面などでも多々あります。そのような機会を大切に、「性」について話題にすることを避けることなく、生徒とともに考える環境を大切にしています。

 

 現在、インターネット上には、「性」の情報が氾濫しています。今後も、ネットリテラシーの問題も含めて、中学入学後、早い段階から取り組んでいかなければならない大切な問題だと考えております。

 

武蔵(杉山剛士校長):

 授業以外にも様々な場面で、「性教育」あるいは「人権教育」を行なっています。

 

 具体的には、まず中1を対象に保健室が主催し、外部講師の力もお借りしながら、「生の問題」と「性の問題」について取り扱う「命の授業」を行なっています。これについては、保護者との連携も必要なことから、別途、保護者対象の「命の授業」も行なっています。

 

 中2では「アンガーマネジメント」の授業を導入しています。ここでは、全6回のワークショップ型プログラムを通して、自分自身の良さについて認知させ自己肯定感を持たせるとともに、他者理解を図りつつ他者を受入れる「体験と気づき」を与えています。

 

 さらに高校1年では「人権教育」の講座の中でも「性暴力」について取り上げています。NPOの方々の力もお借りしながら、具体的なDV等の事例に基づき、将来一人一人の生徒がどうすべきかを考えさせています。

 

 日本の社会は、政治面でもビジネス面などでもまだまだ女性の進出は遅れていると認識しています。そうしたことを認識させたうえで、将来それぞれの生徒が、家庭においても社会においても、どのような役割を担うべきか、さらにどのような社会づくりに貢献していくのか、今後とも考えさせていきたいと思っています。

「女性に対する偏見を育てる」という批判も…男子校は時代遅れなのか? “御三家”の校長に聞いてみた

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