本記事の取材にあたり、“男子御三家”と呼ばれる、麻布・開成・武蔵の3校の校長に「いま男子校教育を行う意味とはなにか」を尋ねるアンケートを送り、全校から回答を得た。各校の回答は記事末尾に掲載している。
◆◆◆
コロナ禍の中、予定を取りやめることも増えているが、小学6年生の子を持つ家庭では中学受験への熱がとどまらない。模試の受験生の数をみても去年と変わらないのだ。
そんな激戦が続く中学受験の世界で、この数年で目立った変化がある。男子受験生の間で共学校が人気を高めていることだ。
「共学志向」は女子特有のものだったが……
私が2012年に中学受験を集中して取材した頃は、男女別学を敬遠し、共学に入りたがる「共学志向」は女子特有の現象だった。そのため、共学校の偏差値は女子の方が何ポイントも高かった。
2012年公表の日能研の予想R4(偏差値)をみると、渋谷学園渋谷は女子が63、男子が58である。女子の中では御三家に並ぶ偏差値だったが、男子では御三家(開成72・麻布68・武蔵63)や慶応普通部65・早稲田学院64の下にいた。
ところが2020年の最新データでは、渋谷学園渋谷の男子の偏差値は66で、御三家や早稲田学院や慶応普通部と同位置にいる。同じく共学の進学校、広尾学園も男子の偏差値は54だったのが61と伸び、2016年に男子校から共学化した法政第二も、51から56とアップしている。
一方、男子校は偏差値を下げている学校も目立つ。今年の模試はコロナの影響で受験生が安定志向になり、志望校のランクを落とす傾向があるとされ、「共学校は難しいから男子校を志望する」というトレンドが見受けられる。それでも、2012年と比べると、駒場東邦は68と御三家と同位置だったのが現在は63に、また、巣鴨は58から56、攻玉社は58から55と偏差値を下げている。
「共学で人間関係に揉まれてほしい」と願う親たち
都内中学受験塾の社員がいう。「男子校でいい学校が偏差値を落としているから、それらの男子校を私たちは勧めますが、『息子は共学で人間関係に揉まれた方がいい』とおっしゃる保護者も増えています」
つまり、かつては男子校に入学していたような「教育熱心な家庭の子息」が、続々と共学を選び始めているということだ。それは一体なぜなのか。その答えは、昨今の男子校教育を疑問視する声の中にあるように思える。
上野千鶴子元東京大学教授は、対談本『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』(大和書房・田房永子との共著)の中で、今の東大の男子学生を保守的だと論じる流れで、「彼らの多くは中高一貫私立男子校の出身者」といい、「『ホモソ(ホモソーシャル・異性を排除した同性同士の絆)』と言うと腑に落ちる男性集団がそこらじゅうにある。そういう集団で育ってきているせいか、女に対する妄想や偏見をいっぱい溜め込んでいる」とも話す。
これは上野元教授らしいリップサービス込みの過激な物言いも含まれているだろう。そこでこの対談本の中でも研究調査が紹介されている横浜国立大学の江原由美子教授を取材すると、「第一子を出産した後も女性が働き続ける割合は6割となっています。(そんな社会の中で)思春期を男子だけで教育することは時代にあっているのでしょうか」と、冷静に男子校教育に疑問を投げかけてきた。