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「主人は誰と来たんですか」

――本妻と愛人で、トラブルになったことはありますか?

A:奥様が乗り込んでくることはありますね。 

C:奥様が家でうちの領収書を見つけたと電話がかかってきたこともありましたね。

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「主人は誰と来たんですか」と奥さんに聞かれましたが、「それは言えません」と答えたら、「男ですか、女ですか」とさらに追及されて。「これは、お宅の領収書ですよ。お宅は不倫している二人を泊めるような宿ですか?」と責められても、ね......。どうお使いになるかは、私どもでは......。

B:うちは外線から電話が入っても、折り返しの連絡を承ることは不可にしています。これはスタッフに徹底しています。

※写真はイメージ ©iStock.com

お礼状がアダになることも……

A:私はお礼状を出すんです。でもそれがアダになることもあって......。

 ある日、奥様から電話があって、「お礼状をいただきましたけれど、宅の主人は泊まっていないと思います」と。ご主人を信じていらっしゃるんですね。ですから、私が「本当に失礼なことをお聞きいたしますが、地位とか名誉があるご主人様ではございませんか」と言うと、奥様は「はい」とおっしゃるんです。

 そこで「たくさんの方と名刺交換されているんですね。お客様の中には、有名な方の名刺を使い、泊まられていく方もいます。わたくしどもは『本名ですか』とは聞けませんので、お礼状を出してしまいました」と。そうしたら、奥様はものすごくお喜びになって。それからご夫婦の旅行の思い出を話してくださって、電話を切る時は「今度、泊まってみたいわ~」と。

――その有名人の名刺を使うという話は、その場で思いついたんですか?

A:そう、とっさに思いつきました(笑)。もちろん、私はうろたえていましたよ。でも電話ですので、こちらの様子は伝わらないですよね。その奥様、電話口で最初はものすごく怒っている風だったんですが、だんだん声のトーンが落ち着いていくのが分かるんです。ここはまだまだ喋らせてからこちらの言い分を言おうとか、そのタイミングは女将をやっているなら、みんな分かっていますよね。変な時に言葉を挟むと、激高されるから(笑)。 

B:宿帳に本名で書かなければいいんですけどね。 

A:だから電話を切ってからすぐに、それ以降はお部屋に置くアンケートに「お礼状を出していいか」という質問項目を作りました。ほとんどの方が「不要」に印を付けますね。

女将は見た 温泉旅館の表と裏 (文春文庫)

山崎 まゆみ

文藝春秋

2020年12月8日 発売