昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2020/12/08

source : 文春文庫

genre : ライフ, , ライフスタイル

「いつもありがとうございます」とは言わない理由

――大型旅館より、隠れ家系の宿のほうが、ということでしょうか。

A:うちはお客様の半分くらいがお忍びのご旅行なんです。そしてリピーターさんが多い。今回は奥様と、今回は彼女と、というお客様も少なくない。私は、客室へご挨拶にはうかがわず、宴席の入口に控えているんです。お食事の際にご不便をかけていないかを確認しなくてはいけないので、ご挨拶は食事中に行くんですね。その時は、お客様が何か言ってくれるまでは「いつもありがとうございます」とは決して言わないんです。何度も来ているお客様でも、「初めて来たけどいい宿だね~」と言われることもあるんですね。その時は、素知らぬ顔で「ありがとうございます」と対応するんです。

D:うちもですよ。スタッフに「いつもは」という言葉は決して使わないことを徹底しています。 

C:奥さんと来た時は安い部屋なのに、愛人と来た時は露天風呂付きの高い部屋ってお客様がいますね~(笑)。うっかりした風にして、言っちゃおうかしらと思うこともあります。男性って、そうなんですね(笑)。 

※写真はイメージ ©iStock.com

一同:あるある(笑)。

A:うちは女の子もありますね。いつも一緒に来る男性が違うという女の子が。

一同:(大きく頷く)

D:お客様がご事情をもし話して下さるのなら、私はそのお客様とは信頼関係があると思います。「今日は家内」、「今日は彼女だよ」と言っていただけるなら、こちらもきちんと対応いたしますから。

“顧客リスト”には何が書かれている?

A:うちは懐石料理が売りです。お客様も楽しみにして下さいますので、お食事は全て変えるんです。ですから、お客様の食のお好みやアレルギーがあるかどうかは、こちらで全て記録しています。

 ある時、男性のお客様で、前に連れて来られた彼女が「生ものがダメ」という記録がありましたので、同じ女性だと思ってしまって、お連れの女性のお客様にお肉をお出ししたことがあります。そしたらそのお客様が「え、どうして?」と言うんです。

 係の者がびっくりして報告してきたので、私が行って「お刺身は苦手ではなかったですか?」と聞くと、「私、お刺身大好きです」と言われましたので、内心で「アッ」と思いながら、すかさず「申し訳ございません。不慣れな係の者でして、お隣の宴席と間違えてしまったようです。下げさせていただき、新しいものをご用意いたします」と対処しました。こうした場合は「不慣れ」で通しますね。

©iStock.com

一同:さすが!(笑)

D:顧客リストも、分けて書いておかなくちゃだわよね。 

A:女性は、髪型がよく変わるじゃないですか。だから丸顔とか四角とか、鼻が高いとか、色が白いとか、そうしたお客様の特徴を全て書いてパソコンに入れておきます。ご夫婦なのか彼女彼氏なのかも書いておきます。もし私がいない時でも、スタッフも見られるようにしておきます。うちはフロントスタッフの子でお客様の顔を一度見たら忘れない子がいて、その子に聞いて、「大丈夫です」と、確認してもらうこともありますね(笑)。でも、どんなに注意しても、間違いってあるんですよね......。