筆者の仕事は、ホテルへ出向き取材することが基本であるが、コロナ禍においては当然叶わない。そこで過去の記録を振り返ったりしているのだが、やはり強烈な記憶として残っているのは2014年、372軒へチェックインした1年間だ。

 もちろん感動のサービスやラグジュアリーなホテルも体験したが、なぜか記憶に強く刻まれているのは“酷かった”体験だ。旅とは記憶であり体験。そのときは苛立ち悲しくもなったが、旅立つことができない今となっては、なぜか微笑ましい思い出として蘇ってくるから不思議なものだ。

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1年間で372軒“チェックイン”した理由

 ところで、筆者がホテル評論家を名乗ったのは2013年10月25日。ホテルの食品偽装問題で複数のメディアから取材のオファーがあったことがきっかけだった。ただ、ホテル評論家を名乗ってみたものの、自分の強みは多くのホテルを知っているということだけ。そこでさらにひとつでも多くのホテルを体験しようと翌2014年に、元旦から大晦日まで毎日ホテルへ泊まり続けるというミッションを思い立ち遂行した。

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 ところが、ミッションコンプリート直前の12月上旬、同行していた家人が福井県内のホテル内で骨折。救急病院で診てもらったところ、入院、手術の上、完治までに3ヶ月は要するといわれ、とにかく東京へ戻って診察を受けるべきと医師から勧められた。急遽帰京することを決断し、夜半にホテルをチェックアウトしたわけだが、果たしてこの日は「宿泊」と言えるのだろうかという疑問を持ったことで、達成目前だった365日宿泊ミッションはこれにて終了と一線を引いた。

 その後も大晦日までホテル泊は続けたものの、翌日は自宅近所の病院に付き添いつつ早朝にチェックインするなど、もはや“宿泊”といえないような利用もちらほら。結果として2014年末日までに計372軒(1日2軒同時にチェックインなどもあるため)のホテルへチェックインしたものの、自身の中では365日連続して“宿泊した”ことにはならないという判断をした。

 キャッチーなワードなのか、時にメディアで「1年間で372軒のホテルへチェックインしたホテル評論家の……」と紹介されることがあるが、372軒のホテルへ「宿泊した」ではなく「チェックインした」としているのはそのためである。