新型コロナウイルス感染症への日本政府の一連の対応のなかで、これまで何がうまく行き、何が失敗だったのか?――第3波の勢いが強まる今、その検証は欠かせない。

 そんな中、「新型コロナ対応・民間臨時調査会」(小林喜光委員長=コロナ民間臨調)が、政策決定に関与した関係者たちの貴重な証言を集めた『調査・検証報告書』を発表した。

 今年5月、緊急事態宣言を解除するにあたり、安倍晋三首相(当時)は「日本モデルの力を示した」と胸を張り、政府の対策の成功であるかのように強調した。しかし、その「自己採点」は正しいのか――。

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83人の関係者へヒアリング

 こうした点を検証すべく、コロナ民間臨調は安倍前首相のほか、菅義偉官房長官(当時・現首相)、西村康稔新型コロナ対策担当相や専門家会議副座長だった尾身茂コロナ分科会長(7月に改組)のほか官邸や厚労省の官僚も含め83人もの関係者へのヒアリングを行った。

安倍晋三氏と菅義偉氏 ©共同通信社/文藝春秋

 その結果、今年6月までに行われたコロナ対応について、いくつもの新事実が当事者の口を通じて明らかにされている。

 その一つが、感染が増えだした3月、政府の水際対策が後手に回った経緯だ。欧州からの帰国者に対しての上陸制限措置に遅れが生じた。中国と韓国に対しては3月5日、発行済みの査証(ビザ)は無効とし、観光目的の来日自粛を要請する方針を政府は固めた。ところが欧州ほぼ全域に対しては、4月3日にならないと発動されなかった。どうしてそんなことが起きたのか。

 ある官邸スタッフは報告書の中でこう明かす。

“緊急事態宣言慎重派”だった菅義偉氏

「同時期に行った一斉休校要請に対する世論の反発と批判の大きさに安倍首相が『かなり参っていた』ことから、更なる批判を受けるおそれが高い旅行中止措置を総理連絡会議において提案することができなかった」

 そして「今振り返るとあの時欧州旅行中止措置をとっておくべきだったと思う。あれが一番、悔やまれるところだ」と告白している。

460頁を超す『新型コロナ対応民間臨時調査会 調査・検証報告書

 また、安倍前首相も重要な証言を残している。ヒアリングに対し、最も難しかった判断として4月7日に出した緊急事態宣言を挙げ、「ずいぶん論争があった。経済への配慮から結構慎重論があった」と振り返っている。

 報告書によれば3月28日ごろ、安倍首相が「早めに出した方がいい雰囲気だよな」と話したのに対し、西村コロナ担当相は「早めに出す方がいいと思っています」と応じていた。だが、これに一貫して慎重論を唱えていたのは菅官房長官で、「経済へのダメージを懸念していた」という。これは今現在、Go Toトラベルキャンペーンなどの存続にこだわる菅首相の姿勢とも重なる。

 加えて安倍首相の判断を難しくしたのが、小池百合子東京都知事の存在だった。