駆け引きなしに政府に対してものを言う尾﨑氏に対して、政府は巧妙だ。専門家集団の会議に、政府にとって都合の良い統計を駆使して、Go Toと感染拡大との因果関係を否定する資料を出してくる。さらに業者から上がってきた感染者数だけを取り出して、影響は少ないことを仄めかす。
挙句には、Go Toを続けるか停止するかの判断を、地方自治体に丸投げしようとする。全国の感染状況を「俯瞰して総合的に」みられるのは国しかいないはずなのに。
「このままでは都民の命を守れない」という焦り
もちろん尾﨑氏は、経済を回すことの大切さも理解している。Go To事業では、「旅行先での感染防御マナーをしっかりしていれば抑えられる」と話していた時期もある。だが、それも感染状況とのバランスだ。いま、そういう時期なのかという疑問が、彼には拭えない。
筆者は今年3月から、テレビの討論番組やインタビュー、会見での彼の言動を追いかけてきた。このままでは都民の命を守れないという焦り、それにハンマーを振り下ろすべき時に、都合の良いデータだけでごまかし、責任をなすりつけ合っている政府への憤りが、彼を駆り立てているように見える。
将来は日本医師会長への呼び声高い尾﨑氏に、そのことを尋ねてみたことがある。すると、「そんなことを考えていたら、今を乗り切れないでしょ。いまはハンマーを振り下ろすとき」と一蹴された。
尾﨑氏は最後にこう語った。
「なかには、将来に支障をきたすのではないかとの忠告をしてくれる人もいます。ぼくの将来って、何を指しているのかわかりませんが、感染拡大を防ぐために信じた言葉を紡ぐことは、いま最も必要だと感じています。そこはブレずに、筋を通したいと思う。国民が安心して正月を迎えられるように、ぼくも、頑張ります」
◆
尾﨑治夫・東京都医師会長のインタビュー「菅首相よ“ハンマー”を振り下ろせ」の詳細は「文藝春秋」2021年1月号および「文藝春秋 電子版」をご覧ください。
菅首相よ“ハンマー”を振り下ろせ