世間で「第三波」と呼ばれる現在の新型コロナウイルス感染拡大を、神戸大学教授で感染症内科が専門の岩田健太郎医師は「第二波が収束しきれないまま広がってしまった状況」と説明する。

 なぜ第二波が収束しきれなかったのか――。その理由を岩田医師は「ムード」という言葉で表現する。

「政府がぶち上げたGo To キャンペーンや、繰り返し発信される『経済を回すことの重要性』を説くメッセージに、日本全体のムードが感染対策を緩める方向に傾いてしまった」

ADVERTISEMENT

得をしたのはウイルスだけだった

 そもそも日本人は、「ロジック」や「データ」を重視するよりも、「ムード」や「空気」に流されやすい国民性だ。政府が何の科学的裏付けも持たずに発信する経済対策に、「もう大丈夫なのだろう」と思い込もうとした。そして政府は、そんな国民の「安心したい」という思いを利用して経済回復に舵を切った。結果として得をしたのは、感染拡大を目論むウイルスだけだったのだ。

 政府は「感染拡大防止と経済の両立」を「withコロナ」などという表現を多用してアピールするが、岩田医師は感染学の視点から、「それは幻想に過ぎない」と斬り捨てる。

岩田健太郎氏(神戸大学教授) ©共同通信社

 いわゆる“コロナ禍”で大打撃を受けている産業の多くは、観光、イベント、外食など「人の移動」によって成り立つ業種だ。これらの業種を感染が続くなかで動かしたところで、たとえ政府が何らかの施策を講じたとしても元の水準に戻すことは不可能。まずウイルスを徹底的に制圧してから経済を動かす、という手順を踏まない限り、いつまで経っても「外出自粛」と「自粛緩和」を繰り返すだけ。長い目で見れば、経済を弱めていくだけ――と分析するのだ。

「ファクターX」が生んだ“幻想”

 そんな政府にとって便利な言葉が湧いて出た。「ファクターX」だ。

 日本人は欧米人に比べて感染しにくく、たとえ感染しても重症化しにくい。その背景には何らかの要因、「ファクターX」が存在する――という説だ。ご存じの通り、京都大学の山中伸弥教授が立てた仮説だが、これは「withコロナ」を標榜して経済対策に力を入れたい政府にとっては大きな援軍となった。