2020年(1月~12月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。トラベル部門の第3位は、こちら!(初公開日 2020年7月20日)。
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東京から新大阪を目指して東海道新幹線の「のぞみ」に乗っていると、風の速さで過ぎてしまう通過駅の存在を意識することはほとんどない。だいいち、「のぞみ」が停まらないとはいえ、やはり新幹線。静岡なり浜松なり小田原なり、それなりに知名度の高い駅が多い。だから、東海道新幹線にナゾの通過駅などないのだ……と思っていた。ところが、ひとつあった。三河安城駅である。
三河安城駅と聞けば、ピンとくる人も多いだろう。「のぞみ」が名古屋駅に近づいてくると流れる車内放送――「この電車は三河安城駅を定刻通りに通過しました。次の名古屋駅にはおよそ9分で到着します……」というアレだ。名古屋で降りるときはこの車内放送を聞いて、「ああ、そろそろだな」とリクライニングをもとに戻して荷物をまとめて降りる準備をする。だから三河安城駅は「のぞみ」ユーザーからの知名度がかなり高い。
ところが、実際に降りたことがある人はどれだけいるだろうか。まさしく三河安城駅は、天下の東海道新幹線における“ナゾの通過駅”と言っていいだろう。
「三河安城駅」には何がある?
ならば訪れないわけにはいかない。さっそく東海道新幹線に飛び乗った。じつは筆者は東海道本線の全駅を訪れるという本を書いたことがあり、そのために2年ほど前にも三河安城駅を訪れたことがあるから2度目の訪問だ。2年ではあまり変化があるわけでもなさそうだが、新たな発見があるかもしれぬ。
新幹線の三河安城駅は高架駅である。新幹線のほとんどの駅は高架だからこれは別にナゾでもなんでもない。高架のホームから階段を降りて高架下のコンコースへ。改札口を抜けると、さすが新幹線だと感心させられる。高架下には世界の山ちゃんや浜松餃子の店があるのだ。名古屋と浜松の間の三河地方、それぞれの土地を代表するB級グルメの店である。
もうひとつの「三河安城駅」
新幹線の駅舎から北口に出る。すると、大きなロータリーと公園らしきものが広がり、そのさらに先にはもうひとつ小さな駅舎があった。