2020年(1月~12月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ライフ部門の第3位は、こちら!(初公開日 2020年6月30日)。
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出てくる言葉は「お母さん」と「わかんない」の2語だけ。旦那がお見舞いにきてくれるたびに、うれしくて、私はたくさんしゃべりましたが、「お母さんがわかんないからお母さんで、わかんないからお母さんでお母さんなの」。旦那にはまったく理解できなかったはずですが、それでも何だかおかしくて、ふたりでゲラゲラ笑っていました——。(全2回の2回目/#1より続く)
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「手術はイヤ」
検査結果はくも膜下出血でした。
「すぐ開頭手術しないと命に関わります」と脳外科の先生。私は「手術はイヤです」と言ったつもりでしたが、あれよあれよという間に手術室へ。連絡を受けた旦那が病院に到着した時には、準備万端整っていたそうです。
私は手術用のガウンを着せられ、お医者さま数人と看護婦さん数人がベッドを取り囲んでいました。あとは旦那が手術の同意書にサインするだけです。
旦那は、手術台に横たわる私にこう言いました。
「さっき脳外科の先生から説明を受けた。いま手術を受けないと、大変なことになるそうだ。死ぬこともあるし、水頭症で認知症になるかもしれないって。俺はそんなのはイヤだから、手術を受けてほしい。でも、どうしても手術を受けるのがイヤなら、君の気持ちは尊重するから」
私は薬で少し朦朧としていたので覚えていませんが、「手術はイヤ」と言ったそうです。
「本人が拒んでいるのに、僕が同意書にサインすることはできません。その結果、何が起ころうと僕が責任をとります」
と、旦那が言うと、お医者さまは信じられないという顔をして、何度も説得してくれたそうです。