12月9日に英国で、15日には米国で新型コロナウイルスワクチンの本格的な接種が始まりました。英国で2人に、米国で1人に強いアレルギー反応(アナフィラキシー様反応)が起こったと伝えられていますが、もともと重いアレルギーを持つ人たちで、他に重篤な副反応(ワクチンによって起こる好ましくない反応のこと)は今のところ報告されていないようです。このまま安全に接種が進み、英米でのワクチン接種が成功するのを願うばかりです。

 このワクチンの日本での接種は国内での臨床試験や審査を経る必要があり、早くても来年3月以降になると見られています。その頃には欧米各国で何十万、何百万という人がワクチン接種を終えているでしょう。それにともない安全性や有効性に関する情報も蓄積され、このワクチンの真価が少しずつ見えてくると思います。

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 日本での接種が始まったときに、ワクチンを打つかどうか個々人が適切に判断するには、欧米の情報も含めて、このワクチンがどんなもので、どんな課題があるのかを、あらかじめ知っておく必要があると思います。

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 そこで、「ワクチンを打つ前に最低限知っておきたい3つのこと」を、ウイルスやワクチン研究者に取材した成果をもとに、私なりにまとめてみました(文春ムック「スーパードクターに教わる最新治療2021」の特集記事「新型コロナ 治療の最前線を追う」で、ワクチン、治療薬、PCR検査について筆者が取材・執筆を担当)。

(1)欧米のワクチンは本格使用が初めての「最新タイプ」

 まず知っておきたいのが、同じ新型コロナウイルスワクチンといっても様々なタイプがあり、欧米で接種が始まったものはこれまでにない「最新のタイプ」であるということです。従来のワクチンは、人工的に感染性や病原性を弱めたウイルスや、微生物や昆虫細胞を利用して生産したウイルスたんぱくの一部を注射することで、それに対する抗体を免疫細胞に作らせる仕組みです。「不活化ワクチン」「組み換えたんぱくワクチン」「組み換えウイルス様粒子ワクチン」といったタイプがあります。

 これに対し、今回、英米で始まった接種には、ファイザー(米)とビオンテック(独)が共同開発した「mRNA(メッセンジャーアールエヌエー)ワクチン」が使われています。これは「遺伝子ワクチン」の一種で、ウイルスの表面にある「スパイクたんぱく」と呼ばれる部分の設計図(遺伝子)を注射することで、ヒトの細胞に設計図を取り込ませてスパイクたんぱくを作らせ、それに対する抗体を免疫細胞に作らせる仕組みです。

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 ファイザー&ビオンテックのワクチンは、日本政府が1億2000万回分(2回接種が必要なので6000万人分)の供給を受ける合意を得ています。さらに日本はモデルナ(米)のmRNAワクチン(5000万回分)と、アストラゼネカとオックスフォード大が共同開発中の「ウイルスベクターワクチン(1億2000万回分)」の供給も受ける予定です。このウイルスベクターワクチンや、大阪大発のバイオベンチャー企業アンジェスのグループが開発を急いでいる「DNAワクチン」も遺伝子ワクチンの一種です。

安全性や有効性は“未知数”な面も

 これら遺伝子ワクチンは、まだ本格的にヒトに使われた実績がほとんどありません。「最新」と聞くと自動車やパソコンのように、従来に比べ高性能で優れているイメージを持つかもしれませんが、医薬品の場合は本格的な使用が始まって調査してみたら、従来の製品のほうが最新のものより優れていたということが往々にしてあります。また、最新ということは裏を返せば、まだ安全性や有効性に関するデータが蓄積されていないということでもあります。