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予断を許さないオリンピックに
来年もしオリンピックが開催されるとしたら、「人類がウイルスに対して立ち向かう」というテーマが前面に掲げられるはずです。このようにテーマが前面に出てくるのは、もしかしたら戦後初めてかもしれません。しかしテロリストなどにとって、みんなの注目が高まる場所は、標的にしたい場所でもあります。警察の方と話をしていると、世界の関心が高まることを心配する声が聞こえてきます。
またもう一つの危惧があります。オリンピックの警備は全国から警察官を集めるわけですが、パラリンピックも含めると1か月半くらい共同宿泊になる。そこでもしクラスターが起きたならば警備どころではありません。その際の感染対策はどうするのかも含め、予断を許さないオリンピックになるかもしれませんね。
「誰にも知られないことが最高の快楽だ」
――麻生さんの小説は常に「闇」の中にいる人々に心を寄せて書かれています。そのテーマがより色濃く出たのが今作ではないでしょうか。
ある特殊部隊の人に聞いてみたことがあるんです。毎日死ぬ思いで訓練をして、死と隣り合わせの現場にも行く、そこで愚痴も不満もあるだろうけど家族にも恋人にも任務について話すことはできない。そんな生活で自分のことをどうやって支えているんですか、と。そしたらその方から「誰にも知られないことが最高の快楽だ」という答えが返ってきました。痺れましたね。闇の中で生きる人の矜持に感動してしまった。そういう発言を聞いて、生き方に凄まじさを感じると、その人のことをもっと知りたいと思うようになる。その感動と興奮を、小説を通じて読者に届けることができていれば嬉しいですね。