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「存在感が抜きんでていた」河瀨直美監督が蒔田彩珠18歳を“期待の新星”と断言するワケ

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 2007年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞し、13年には同映画祭の審査員に就任するなど、映画監督として国際的なキャリアを積む河瀨直美氏。そんな彼女が2021年の「期待の新星」として名をあげ、「野生動物のよう」と評するのは女優蒔田彩珠(18)だった。

「2018年、映画『朝が来る』(10月23日公開)のオーディションに現れたときから、他の女性とまったく違った空気を醸し出していました。力強い眼差し。内側にしっかりとした芯が“発芽”していることを感じさせる佇まい。当時、彼女は16歳でした」

蒔田彩珠さん

 蒔田が『朝が来る』で演じたのは、14歳で予期せぬ妊娠をしてしまう片倉ひかりという女の子だ。

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何の書き込みもない、真っさらな脚本

「特別養子縁組の制度のもと、無事に出産した子は主人公夫婦のもとで育っていくのですが、彼女自身は厳しい人生を歩んでいく……。難しい役どころでしたが、蒔田さんに託すことに、不安はまったく覚えませんでした。オーディションを通じてたくさんの俳優に出会いましたが、それくらい彼女の存在感は抜きんでていた。

河瀨直美さん(Photographed by LESLIE KEE)

 彼女の生まれ持った才能を痛感したエピソードがあります。映画撮影が終わりに近づいた頃、置いてあった彼女の台本を何気なく手に取り、めくったことがあるんです。驚きましたよ、何の書き込みもなく、真っさら、赤ペンや鉛筆での書き込みや線はなく、彼女の台本は新品同様でした。でも台詞はちゃんと頭に入っている。毎日芽生える感情に丁寧に寄り添い役を生きていた」

 河瀨氏の映画撮影では「役積み」といって、役者は撮影前からしばらく、役と同じ生活を送るという。