――この作品の根幹を成す「風が吹けば桶屋が儲かる」的な発想というのは、道尾さんの小説にしばしば出てきますね。
道尾 かつてコナン・ドイルが「ジョン・ハックスフォードの告白」で書いたように、ほんの小さなことが大きなことの原因になる、その現象自体に強い興味があるんです。現実世界でも、何かの元を辿ればまた元があって、一番最初にあるのはものすごく些細な出来事だった、というケースがほとんどだと思うんです。その現象を、ひとつの町の中で起きた30年の物語として書きました。
――『風神の手』は、道尾さんの小説の集大成的な作品ではないかと私は思っているのですが、道尾さんご自身はどのように思われているのでしょうか。
道尾 主人公の性別や年齢が変わりつつ、長い時間が流れていくというこの作品は、やりたいことが全部できたという手ごたえがありました。長篇を書いているときなどは、どうしてもその作品には混ぜ込めない、水と油のようなアイデアも出てきます。でもこの作品は、性別も年齢も違う主人公たちだったので、思いついたアイデアをすべて詰め込むことができたんです。
――ここまで10作品を振り返ってきたのですが、ご自身の作品の自分らしいところはどこだと思いますか。
道尾 僕はただ好きなものを自給自足的に、本屋さんに売っていないから自分で書いているというような気持ちなんです。作家生活10周年記念の『透明カメレオン』は初めて読者のために書いた小説でしたが、それ以外はただ自分が好きなことを好きなように書いてきたので、これだけ読者がついてくれたのは奇跡ですよね。でも、そのスタイルが自分らしさかなと思うんです。これからも自分好みの小説を書くことで、読者の皆様に恩返しができればと思っています。
※2020年12月8日収録、撮影=掛祥葉子(朝日新聞出版写真部)、聞き手=千街晶之