2004年に『背の眼』でデビューして以来、『向日葵の咲かない夏』や『月と蟹』など数々のヒットを重ねてきた作家の道尾秀介さん。2020年2月には『スケルトン・キー』をモチーフとした楽曲『HIDE AND SECRET』でソニー・ミュージックからデビューをするなど、様々な分野で活躍している。
そして2021年、道尾さんの著書の累計発行部数が『風神の手』(1月7日発売)をもって600万部を突破した。刊行を記念して、デビューの思い出からミステリトリックについての考え、道尾さんが考える“道尾秀介らしさ”について、ロングインタビューで話をうかがった。
(全2回の1回目。後編へ続く)
◆ ◆ ◆
デビュー作には作家のすべてがある『背の眼』
――2005年刊行のデビュー作ですが、今から振り返ってどのように感じますか。
道尾 書き始めたのは18年か19年前ですが、「レエ……オグロアラダ……ロゴ」という謎の声を仕掛けに使うことを思いついた瞬間は、いまだに鮮明に覚えてます。読み返すと、やっぱり京極夏彦さんの影響を受けているのがわかりますし、あとは主人公が道尾秀介という作家だという設定は、今だったら恥ずかしくて書けないかもしれない。でも当時はデビューしていないから、道尾秀介という人物は世の中に存在していなかったんですね。だから何の違和感もなくて、しかもエラリー・クイーンとか法月綸太郎さんとか、不勉強で読んでいなかったので、語り手=作者の名前という前例があるのを、なんと知らなかったんですよ(笑)。自分が思いついたと思ってたぐらいで。
――デビュー作の時点で、何気ない嘘が回り回って人の運命を狂わせるというテーマを書いているあたり、道尾さんはこの時期から道尾さんだったというのを強く感じます。
道尾 好きなものは変わらないというのは僕も読み返して思いますね。この作品のように横溝正史の岡山ものの世界観が好きなんです。5月に新潮社から出る予定の最新作『雷神』も、閉鎖的な田舎町で起きるミステリなんですが、最新作まで好みが変わってないのは嬉しいことです。