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青春の終わりを描いた『ラットマン』

――『ラットマン』はタイトルが示すような心理的な錯覚トリックの集大成という趣がありますね。

道尾 「ラットマン」や「ルビンの壺」みたいな錯視図形は以前から好きなんですけど、実際にラットマンの絵を出して小説を書くのは、作家生活の中で一度しかできないですよね。だから、タイトルも『ラットマン』にして、ラットマンとは何なのかを突き詰めて、読者にもラットマンを見せていく……と徹底的にこだわりました。

 

――道尾さんはバンド活動もしておられますが、『ラットマン』でバンドの世界を扱ったのは、以前から書きたかったということでしょうか。

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道尾 自分が深く体験したことは一度は小説に書きたいというのがあって、その中でも大きいのが音楽だったので、『ラットマン』で書かなくてもいつかは書いていたと思うんです。でも、光文社の編集さんとお酒を飲みながら打ち合わせをしていて、「青春の終わり」というテーマはどうだろうという話になったんですね。そのテーマと、もうバンドに人生捧げてる年齢じゃないよね、という虚しさや悲哀が上手く一致しそうだったので、ここで書こうと思いました。

コミカルさが際立つ『カラスの親指

カラスの親指

――コン・ゲームものであり、それまでの道尾さんの小説で、最もコミカルなドタバタ劇のタッチの作品になっています。

道尾 コン・ゲームも、いつか書きたいと思っていたテーマのひとつです。詐欺を書くということは必ず被害者が存在するわけで、それをシリアスに描くより、一歩離れたところから見るかたちにするほうが楽しんでもらえる気がして、そうするとああいうフェイキーな登場人物たちになるんですね。その一方で、ただただ詐欺が繰り返されるだけでは面白くないので、物語自体にひとつの大きな仕掛けを用意したんです。展開をスピーディーに派手にして、そっちに気を取られているあいだに裏でとんでもなく大きなことが起きている、という狙いで。

 

――道尾さんはあまり続篇を書かない印象があったので、『カエルの小指』という続篇を書かれたのは意外でした。

道尾 書いた一番の理由は、あいつらが今どうしているか知りたい、と思ったからです。あのエンディングのあとどんな人生を送っているか知りたかったし、無性に会いたかった。作品を書いたタイミングも『カラスの親指』の刊行からちょうど10年後だったので、物語自体も10年後の話にしました。

後編へ続く)

※2020年12月8日収録、撮影=掛祥葉子(朝日新聞出版写真部)、聞き手=千街晶之

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