2004年に『背の眼』でデビューして以来、『向日葵の咲かない夏』や『月と蟹』など数々のヒットを重ねてきた作家の道尾秀介さん。2020年2月には『スケルトン・キー』をモチーフとした楽曲『HIDE AND SECRET』でソニー・ミュージックからデビューをするなど、様々な分野で活躍している。
そして2021年、道尾さんの著書の累計発行部数が『風神の手』(1月7日発売)をもって600万部を突破した。刊行を記念して、デビューの思い出からミステリトリックについての考え、道尾さんが考える“道尾秀介らしさ”について、ロングインタビューで話をうかがった。(全2回の2回目。前編より続く)
ホラーテイストの『鬼の跫音』
――道尾さんの小説の中でも、最もひんやりした印象の怖い連作です。
道尾 怪談にも近いし、ホラーと言ってもいいし、ミステリでもあって、他の短篇集には入れられない話ばかりです。ホラーはすごく好きなので、やるならここでやりつくしたかった。『向日葵の咲かない夏』のS君が頭の中に残っていたので、同一人物ではないけれど、時と場所を変えてSという人物が出てくる物語にしました。この本の収録作はどれもミステリとして理詰めで説明できます。「よいぎつね」だけは幻想譚……と評されることがあるんですが、あれも実は幻想でも夢でもなく、理詰めで説明できる読み方があるんですよ。そのへんも、是非読み解いていただければと思います。
――登場人物の誰をSにするかはどのように決めましたか。
道尾 物語のキーとなる人物ですね。でも主人公ではない。Sの心理は書かず、あくまで器であってほしくて、その中身を読者が埋めていくというかたちにしたかったんです。主人公の世界に大きな影響を与える、時には悪意に満ちた存在、時には自分のからだを犠牲にするほど主人公を愛している存在……いろんなタイプのSを書きました。