30歳から人体実験の如くウエイトトレーニングの限界を突き詰めたと語り、37歳時には当時日本人最速となる159kmの球速を記録。自身の身体と向き合い続けた齋藤隆は“筋肉”についてどのような考えを持っているのか。
ここでは、『37歳で日本人最速投手になれた理由~これからの日本野球~』(光文社新書)の一部を抜粋。同氏のウエイトトレーニングについての知見を紐解く。(全3回の2回目/続きを読む)
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投手のウエイトトレーニングの難しさ
投手がウエイトトレーニングを始める時に必ず考えるのは「自分はどれだけ球が速くなるのか?」ということだろう。しかし、「この考えこそが投手にとって最大の悪になる」と強く言っておきたい。
自分の身体の成長が落ち着き、本格的なウエイトトレーニングを始める時には、自分がどれだけの重量を上げられるか、すなわちMAXがどこにあるか、から入るのは当然だ。自分のウエイトトレーニングの指標作りをしなければならないからである。
ウエイトトレーニングは各種目の筋出力最大値(MAX)が指標になる。MAX出力がわからないと、その70パーセントの出力を導き出せないからだ。例えばベンチプレスなら、1回ないし2回しか上げられない重さを確認(仮に100キロとする=MAX)したら、その70パーセント程度の重さ(約70キロ)を10~12 回上げる。これを、1分の休憩を挟んで3セットというようにウエイトトレーニングを行う。シーズン中かシーズンオフかによって、70パーセントの重さを80パーセントにしたり、回数を増やしたりする。いずれにせよ、まずウエイトトレーニング開始時の筋出力最大値を知る必要がある。
ただ、私が30歳から人体実験の如くウエイトトレーニングの限界を突き詰めてきた際には、自分のMAX=筋出力最大値だけでなく、自分のBOTTOM=筋出力最低値—自分の身体パーツの弱い部分—にも向き合ってきた。
例えば私の身体は、下半身、特に股関節に弱さを抱えていたが、上半身は強く、動作では常に優位に働いていた。しかし一部のパーツの出力がどんなに大きくてもダメなのだ。投げる動作は、筋肉を捻るなど複雑な動作の連続であり、拮抗筋など身体全体のバランスがとても重要なのである。ただ直線的な出力が強いだけでは、良い投手にはなれない。