身体の特性を最大限に生かすための装備とは

 また、身体の見た目が大きくても、投げる動作に必要な筋肉の出力が弱ければ球は速くならない。例えば、ボディビルダーがみんな160キロを投げられるわけではないし、速く走れても高く跳べても、投手としては未完成なのは言うまでもない。加えて、出力だけが強いと怪我のリスクが高くなってしまう。

 車に喩えるなら、スポーツカーのような爆発的エンジン(出力する筋肉)には、それに見合うブレーキ(振った腕を止める筋肉)やサスペンション(ボールをコントロールするための膝や足首の柔軟性)、流線形のボディや装備(速い球を投げる筋肉)がなければ高速で走れないし、故障やアクシデントは避けられない。逆にトラックは、たくさんの荷物を運ぶためのパワーや燃費良く長距離を走れる能力が必要である。

 どちらの要素も求めるなら、SUV(多目的スポーツ車)的オールラウンダーな性能が必要だ。

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 自分の身体の特性を最大限に生かすには、それに見合う装備(自分の骨格に合った筋力やフィジカル)がなければならない。投手が自分の身体を理解し、正しいウエイトトレーニングを取り入れることができれば、スポーツカーにもSUVにもなれる。

 さらに車には、その性能に見合う最適なガソリンやオイルが欠かせない。これはアスリートにとっての食事や飲み物(コンディショニング)に当たる。

 そして最も大切なのは、自分の身体をコントロールする能力——ギアチェンジのようなコーディネート力や、アクセルを踏み込んだ時に空回りすることなく力が伝わることだ。

 速い球を投げるということは、リリース時に最大出力になるように、自身の身体をタイミング良くコントロールすることでもある。これがコーディネート力だ。

ウエイトトレーニングの有効性と危険性

 ウエイトトレーニングをすると、逆に球が遅くなるとか、筋肉が鎧のようになり身体が重くなる、などと言う人がいるかもしれない。そういう人たちは、自分に合ったウエイトトレーニングに出会えなかったか、ウエイトトレーニング後のストレッチやケアを怠ったか、はたまた悪い噂を鵜呑みにしてそもそもウエイトトレーニングにトライしなかったのだろう。

 成長途中の子供が過度なウエイトトレーニングを行うことは、危険を伴うので絶対に推奨しない。やるとしたら自重トレーニング(スクワットやランジ、腹背筋、腕立て伏せなど、器具や道具などを使わず、自分の体重のみの負荷で行うウエイトトレーニングのこと)だろう。

 ただし、成長期が終わり、骨端線が閉じた子には、ウエイトトレーニングも有効だ。少しずつ重量を増やしていくなどの配慮や、ウエイトトレーニング後のケアや食事、大会と大会の間のスケジュールを上手に組むなど無理のないプランニングをしてほしい。また環境が許すなら専門スタッフがいるのが理想的だ。

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