オディロン・ルドンとトゥールーズ・ロートレック。19世紀終盤から20世紀初頭にかけて、当時の美術の中心地たるフランスで異彩を放ったふたりである。
彼らに注目する展覧会「1894 Visions ルドン、ロートレック展」が、東京丸の内の三菱一号館美術館で開催中だ。
モノクロの世界とカラフルな世界
ふたりのアーティストの作風は、一見ずいぶん違う。ルドンといえばまずは「黒い絵」のイメージ、そして晩年に手がけたパステル調の柔らかい色彩を持った絵画だ。
キャリアの初期、ルドンは黒一色の木炭画や石版画を盛んに制作した。曲がりくねった樹木や、窓の外に見える葉群れを描いた画面は、なんとも重々しくてもの哀しい。
眼玉の怪物や、ニカッと笑う蜘蛛のバケモノも描いた。その不気味な姿を見ていると、闇の世界へ引き込まれてしまいそうになる。
そんなルドンも年齢を重ねるごと、徐々に鮮やかな色を操るようになっていく。パステルで着彩する手法を身につけたのだ。多様な色合いを駆使した女性像や花々は、観る側を大いに和ませてくれる。
モノクロの世界とカラフルな世界。落差が大き過ぎて、同じ人物の作品とはにわかに信じられぬけれど、初期と後年のどちらも甲乙つけがたい魅力に満ちている。
肖像画から版画へ
ロートレックもまた、制作の手法がキャリアの途中で大きく変わった。画家を目指していた若きころには、パリのモンマルトルをうろついて身近な人たちをモデルに肖像を描き続けたが、のちに版画を手がけるようになる。
1890年代にカラー・リトグラフ技法が世に広まると、彼はこれを自家薬籠中の物とし、ポスター制作に用いた。1891年の《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》が大評判をとり、現代でいうグラフィック・デザイナーとして一挙に売れっ子に。
彼のポスターは広告物でありながら、早くから美術的価値も認められ、アート界の寵児としてもてはやされることとなった。