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白いばらの最後

 あっという間にやってきた最終日。ホステスたちは着物を着たり、美容院でセットしたりと存分に着飾り、更衣室すら華やかでした。開店時間から予約でいっぱいで、予約は取れなかったけれどお店の最後を見たいというお客さんでお店の外にも長蛇の列ができ、一旦時間になってお店を出てからまた列に並ぶお客さんまでいました。

最終日にはたくさんのお客さんが詰めかけた ©郷里の娘

 それぞれの席では、いつものホステスといつもの話をするお客さん、泣きながら閉店を惜しむお客さん、いままで話したホステスを何人も呼ぶお客さんなど、みなさん思い思いに最後の時間を過ごしていました。私をいつも呼んでくださったお客さんのお席では、ホステスたちでコースターの裏に寄せ書きをしてプレゼント。

 白いばらでは毎日、閉店前にホステスが3人ステージに上がり、『今日の日はさようなら』を歌っていたのですが、最終日は閉店時間の少し前、すべての席にこの曲の歌詞が配られました。

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 社長と店長が最後の挨拶をしてから、「みんなで歌いましょう」と。ステージまでやってくるお客さん、感極まって泣きながら歌うお客さん、ホステスにほかのスタッフたちも加わり、嗚咽の交じる大合唱に……。まるで卒業式のような空間でした!

キャバレーでの人間関係は独特なもの

 お客さんとホステスとの間ではどんなやりとりがなされているのでしょうか。もしかしたら、男と女の「疑似恋愛」の場というイメージが強いかもしれません。たしかに、そういう面がまったくないわけではありませんが、私たちがキャバレーで目にしてきた人間関係はもっと多様で、そこには独特の時間の流れがありました。

 白いばらには、特定のホステスを追いかけるというより「白いばらのファン」としてお店に通ってくださるお客さんがたくさんいました。20代の頃から40年、50年と通いつづけたという常連さんも。また10年以上勤めるホステスも多く、30年以上勤めている方も数名いました。キャバレー全盛期の銀座からみれば決して大規模ではなかった白いばらが最後まで愛されて続くことができたのは、このように、通い続けてくれるお客さん、そして働き続けるホステスを抱えていたからだと思います。

 ある日、20年ぶりに白いばらに訪れたというお客さんがいました。通っていたころと変わらない店内を懐かしむ彼に当時指名していたホステスさんの名前を聞くと、なんと彼女はまだ在籍していて、その日も出勤中でした! 再会した二人は昔話に花を咲かせ、お客さんは「当時の僕は君に夢中だったよね」と言っていました。白いばららしい素敵な思い出です。