なぜGoTo全国一斉一時停止に時間を要したのか
菅首相がGoToトラベルキャンペーンの全国一斉一時停止を決めたのは12月14日のこと。分科会が、感染拡大地域について「一部地域の除外」を最初に求めた11月20日から、約1か月も経過していた。
なぜ時間を要したのか――決定から間もない昨年12月下旬、私は政府に助言している分科会の尾身茂会長へのインタビューの機会を得た。その詳細は1月9日発売の「文藝春秋」2月号に寄稿したが、時間を要した理由について尾身氏は2つの点を挙げた。
1つは、菅首相の経済の打撃に対する強い思いが込められた政策を止める判断を深く考え抜くのに時間を要したこと。もう1つは、大規模流行の中心地である東京都は真っ先に「除外」の対象となるべきなのに、国と都が「両すくみ」に陥って議論が進まなかったことだった。
分科会の提言を受け菅首相が「まずは知事に判断していただく」と述べると、大阪府や北海道は即座に停止に応じた。これに対して東京都の小池知事は「国が判断すべき」と繰り返し、政府に決めさせる構図にこだわった。
小池知事と菅首相のトップ会談となったのは12月1日。当日の決定を、尾身氏はこう振り返った。
「2人の会談の直後に『65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人に利用自粛を呼びかける』という合意がなされたと聞いた時は、『え?』と言葉を失いました。私たちの具申をわかってくれていなかったのか、と強い違和感があったのです」
分科会で明らかにされた解析によれば、国内2万5000もの感染例のうち、旅行を含めた移動歴のある人が2次感染を起こす頻度は25.2%、これに対して移動歴のない人は21.8%で、移動歴のある人の方が4ポイント近くも高く、また、移動に伴って感染を広げているのは、90%が10代から50代の人、つまり若い人の移動が感染を拡大する要因になっている。
つまり、さして移動もせず2次感染を起こしてもいない高齢者を止めるのは、原因と結果を取り違えた選択だったというのだ。