『その女、ジルバ(以下ジルバ)』の池脇千鶴がすごいと話題だ。「あんなんなっちゃった!」と。私も、池脇さんが顔から体型から服装から髪型から近所の食堂の奥さんそっくりになってたのですごく驚いた。
しかし池脇千鶴が「すごい」ことになっているのは『ジルバ』の主役、「さえない独身四十女の新(あらた)」を演じるためだ。
『ジルバ』はマンガの原作があって、これがなかなか不思議なマンガなのだ。素朴で稚拙にすら見える今風ではない絵柄。さえない四十女の新が、ふと見つけた高齢熟女バーでバイトをすることになって、何かがちょっとずつ変わって行く&その高齢熟女バーに集まる人びとの人生が描かれる、……と書くとなんか陳腐なほのぼのマンガみたい。実際、悪人は出てこないし、みんなアケスケで苦労人で親切で、どんどん新は魅力的ないい人になっていくし、「こんなうまい世界があるかよ」と文句つけようとすればいくらでもつけられる。とくに私は「いい人たちがつむぐいい話」には拒否反応が強いので。
なのに『ジルバ』は、読んでるうちにそういういちゃもんつける気持ちがユルユルと失せるのだ。なんか「本物のファンタジーとはこういうもの」って気にさせられるんですよ。バーの「くじらママ」なんて、シロナガスクジラが厚化粧でドレス着たようなバアさんで、それが「天使ってほんとはこういう姿をしてるんだ」と思えてしまうというか。よくできたマンガです。