「文藝春秋」1月号の特選記事を公開します。(初公開:2020年12月16日)

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〈米国大統領選はバイデンの勝利に終わりました。この選挙結果は「米国の民主主義が復活したことの証しだ!」「自国ファーストから米国が世界に戻ってきた!」と、米国内だけでなく世界中で、概ね評価されています。「過去4年間のトランプ政権への不満や批判」がそう言わせているわけですが、私はむしろ「トランプこそ米国大統領として“歴史に足跡を残す”ことになるだろう」と見ています〉

 こう“異論”を唱えるのは、選挙前にも、「それでも私はトランプ再選を望む」(「文藝春秋」11月号)と語っていた仏の歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏だ。

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 とはいえ、「トランプこそ“歴史に足跡を残す”」とは、一体どういう意味なのか。

エマニュエル・トッド(歴史人口学者)

トランプは“今後30年の米国のあり方”を方向づけた

〈トランプは下品で馬鹿げた人物であり、私自身も人として、とても許容できません。しかし、今回再選できなかったとはいえ、過去4年間にすでになされたトランプ政権による“政策転換”が、おそらく“今後30年の米国のあり方”を方向づけることになる。「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「ヨーロッパからの離脱」というトランプが敷いた路線は、今後の米国にとって無視し得ないもの。その意味で“トランプは歴史的な大統領”である、と見ているわけです〉

 つまり、1980年代初めに登場したレーガン(およびサッチャー)による政策転換(「新自由主義」)が、その後の30~40年間(1世代)の米国(および世界)を方向づけたように、「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「ヨーロッパからの離脱」といった“トランプの政策”こそが“今後30年(1世代)の米国のあり方”を方向づける、というのだ。

 一方、選挙で勝利した「バイデン」と「民主党」については、こう手厳しい。

〈今回の大統領選挙を見ていて抱かざるを得なかった最大の疑問は、「勝利したとは言っても、結局のところ、バイデンとは何か? 民主党とは何か?」です〉