2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織と、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂。その詩織がインスリン製剤を大量投与するなどして、茂が植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。(全2回中の1回目。後編を読む)

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家族は半ば一家離散状態

 私は、何(※詩織の義兄)が実は詩織の姉と離婚して、いまは、詩織の子どもたちの消息すら知らないのではないかと疑ったのだ。

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 だが何は、詩織の子どもたちも何の家族も1年ほど前に山東省に引っ越したのだという。理由は勉強をする環境が山東省のほうが良いから。さらに、五常市周辺は冬にはマイナス20度、30度になり多額の燃料費が必要になる。山東省は、その5分の1程度の石炭で済むので、生活費が大幅に節約できるのだ、という。

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 それに、彼ら家族の住むところには、詩織の両親も同居している。そのため生活費が大変なので、詩織の姉は両親に子どもたちを預けて、韓国に出稼ぎに行っている。何でも五常市より率のいい仕事を探して、両親や子どもたちに仕送りしているのだという。ともかく、詩織の子どもたちはしっかりと育てているから心配しないで欲しいという。

 それにしても燃料費節約のために一家揃って引っ越しするなど、日本人には想像し難い。また何の言うことが本当なら、ある種の一家離散状態ではないか。それほどまでに、中国農民の置かれた状況は切迫しているのか。しかし、まだ釈然としない部分があったので、さらに「なぜ、あなただけ五常市にいるのか」と質した。すると何はこういう。

「それは詩織のためだ。詩織は2年ほど前から、プッツリ連絡がとれなくなった。事故に遭ったのか、何か緊急のことが起きたのかと心配したが一向にわからなかった。それでも生きていれば家族思いの詩織は必ず連絡をくれるはずだ。もし、彼女と連絡が取れないまま、家族が住んでいた五常市を離れてしまったら、自分たちと詩織は、この地球上で永遠に連絡がとれなくなってしまう。だから私は学校を連絡先にし、五常に居つづけたのだ。そして今年の8月ごろ突然、詩織から連絡がきた。皆、安心し、それとともに詩織の近況もわかってきた」

 私は、念には念を入れ「子どもたちと連絡が取れているなら、何か証拠のような物を見せて欲しい」と問いかけた。