悪い人間ではないが、決して良い夫とは言えない元春
さすがに幸男や恭一と比べると、元春はまともな人間だと思う。他人の生死に関わるような裏切りはしていないし、久しぶりに会った沙也佳に胸をときめかせつつも、女性関係はクリーンだ。
第1話では元春が黙ってゲーム機を買ったことが発端で、壮絶な夫婦喧嘩に発展するのだが、「コツコツ貯めた小遣いでゲームを買って何が悪いんだよ!」という主張は、第三者から見ると真っ当な言い分である。余談になるが、同クールで放送中のNHKドラマ『ドリームチーム』に登場するモラハラ夫(教え子にセクハラし、手料理には溢れんばかりの粉チーズをかける)と並べてみても、幾分かマシのように思えてしまう。
しかし、これまでの元春を見て“良い夫”……とは誰も評価しないだろう。悪い人間ではないが、決して良い夫とは言えない。むしろ世の既婚男性に共通する小さなダメ要素を結集させたような主人公だ。
ソクラテスの言葉を用いて、「悪い妻を持った俺は哲学者だ……」と自分に言い聞かせていた元春は、ワンオペ状態で育児に奮闘する澪の孤独に気づかない。それどころか、澪の母親が認知症になっていたことすら知らず、他人として澪と関わる二度目の人生で、ようやく自らの行いに矢印が向く。そんな元春の姿についイライラしてしまうのだが、画面を通り越して自分ごとのように考えてしまうのは、アイドル・大倉が“ダメ夫”役に馴染んでいる何よりの証しだ。
ダメ夫・元春の過去への旅路は、何を気づかせてくれるのか
基本の流れは原作ドラマに準拠しているが、箱入り娘ならではの葛藤を抱えた沙也佳のシーンなどは、日本版のオリジナル。澪だけではなく、沙也佳のことをどれだけ理解できるかで、元春への評価が大きく変わってくるだろう。
「もしも、あの時に戻れるなら……」と同時に、「人生やり直せば上手くいくはずだ!」と誰もが思う。タイムスリップ前の元春も同じように意気込んでいたが、戸惑いと後悔の真っ只中にいる。元春の過去への旅路は成功を掴むためではなく、“気づき”を得るためにあったからだ。
その気づきから、私たちは何を感じ取るのだろうか。二度とは戻れない日々の大切さを噛みしめながら、元春の旅路を見守りたい。