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「生意気言って、承知せんぞ!」

「何言っとんじゃ!」

 そう叫ぶや、私の襟首をつかみ、ずるずると刑事部屋から引きずり出した。そこでこんこんと説教を受けた。

「ここはわしらの城なんじゃ。お前はいさせてもらっとるだけなんじゃ。生意気言って、承知せんぞ!」

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 迫力満点だった。何せ彼らはヤクザをビビらせるのが商売なのだ。これまでこのデカさんの人のいい姿しか見ていなかったから、私は心底ビビった。しょんべんチビりそうとはこのことだ。刑事課長もデカさんと2人で私を挟むように立って言った。

「あれは取り調べ中の被疑者がちょっと体調が悪くなったから運びだそうとしただけ。運ばれるところを見られたらかわいそうだろ。だから出ていかせようとしたんよ」

 とんだ思い違いだ。すっかりしゅんとなって、すごすご警察署を引き上げた。局に戻って堀江さんに報告したところ、「それはほっといたらまずいな」と言われ、その夜、菓子折を持って課長の官舎にお詫びに行った。課長は苦笑いしながら「もう、ええよ」と言ってくれた。

 後日、刑事当直に恐る恐る行ったところ、あのデカさんがいた。彼は何事もなかったかのように「おお、来たか」と話しかけてくれた。失敗だらけの新人時代だったが、人の情けを知ることも多かった。

ネタをとるための「壁耳」作戦

 けれども相変わらず、デカさんから「ネタをとれる」関係にはなかなかなれなかった。配属されて数か月も経つと、早くも同期入局の記者がどこどこで特ダネをとったという話が伝わってくる。こうなると何としてでも情報がほしい。私は次第に焦り始めていた。

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 山口警察署をはじめ全国各地の警察署をたばねる組織として都道府県ごとに「警察本部」が置かれている(東京都は警視庁)。

 この頃、山口県警察本部はまだ古い4階建ての庁舎で、刑事部長室の隣に倉庫があった。その倉庫の入り口に鍵かぎがかかっていないことに、ある時気がついた。古い庁舎は壁が薄い。倉庫に入り込んで「壁耳」をすれば、隣の刑事部長室での秘密の会話が聞こえるのではないか?

「壁耳」とは文字通り、薄い壁や扉に耳をあてて向こう側の会話を聞き取ろうとする手法だ。国会や自民党本部に行くと、政治家たちが部外者を入れずに会議をしている部屋の前で、政治記者が「壁耳」をしているのに今でもよく出くわす。私にとってはほほえましい光景だ。そこは記者がいてもいい場所だが、警察ではそうはいかない。