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警察署の倉庫にこっそり浸入

 しかし私はある日「壁耳」作戦を実行に移した。こっそり倉庫に入り込み、壁に耳を当てる。だが向こう側の刑事部長室の会話は思ったほどよく聞こえない。そうこうするうちに倉庫に入ってきた警察官に現場を現行犯で取り押さえられてしまった。今なら「建造物侵入」で逮捕されてもおかしくないところだが、当時はそこまではいかず、刑事部長室で部長はじめ刑事部幹部の面々に囲まれて正座させられた。お白州に引き据えられた罪人そのものだ。そこでこんこんと説教を受ける中で、捜査1課の課長補佐の一人が放った言葉が今も忘れられない。

「情報は信頼関係を築いて聞き出すもんじゃ。こそこそ盗み聞きするもんじゃない。じゃけえ、わしはお前が嫌いなんじゃ」

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 この課長補佐は、前から私の言動が気に食わないらしく、常々厳しいことを言う人だった。その人から、至極もっともで一言も言い返せない正論で説教されてしまった。恥ずかしくて情けなくて、涙がこぼれた。

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 でも心の底ではどこかに「だってあなたは、僕を決して信頼してくれないじゃないか」という気持ちがあった。信頼関係を築けないのは自分の責任なのに、相手に転嫁する気持ちが。

ベテラン刑事が毎回おごってくれたワケ

 自分なりに一生懸命な気持ちが空回りして、なかなか信頼関係を築けなかった私。夜回りに行っても会話が続かず、シラ~っとした空気が流れることもたびたびあった。これでは親しくなれない。どうして自分はうまく話ができないんだろう?……今ならわかる。相手の気持ちを考えない、相手の立場になっていないからだ。ある警察幹部の自宅で奥さんの手料理をご馳走になりながら「覚醒剤のガサが撮りたいんです」と、そのものずばり話したことがある。相手は苦笑いして奥さんに「こいつ、こんなこと言ってるよ」ともらした。自分の思い、都合だけでモノを語るから、相手はシラけるばかりだ。

 もともと子どもの頃から人見知りで、知らない人と世間話をつなぐのが苦手だった。でも、誰かと話をしたい、一緒に呑みに行ったりしたいという人恋しい気持ちは人一倍あった。記者の仕事を選んだのも、この仕事をすればいろんな人と知り合いになれる、世間のことをいろいろ知ることができると考えたからだ。