「記者」という職業を知らない人はいないだろう。しかし、具体的にどのような仕事をしているのか、どのようにして情報を得ているのかについて知っている人は少ないのではないか。そんな意外と知られていない記者の仕事内容に迫った一冊が2021年2月に発行された『真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』(角川新書)だ。
著者は森友学園問題など、これまでに数々のスクープを世に発信した記者、相澤冬樹氏。ここでは同書を引用し、警察から“ネタ”をとる取材の裏側を明かす。(全2回の1回目/後編 を読む)
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暴対デカに刑事部屋から引きずり出された事件
サツ回りの仕事では「ネタをとる」こと、つまり警察の捜査情報をつかんでくることが何より重視される。それは記者としての評価基準にもなる。だから僕ら記者は捜査情報を持っているデカ(刑事)さんたちといかに関係を構築するかに腐心する。
山口警察署の当直を回っていてわかったが、デカさんたちは1階の当直席にはいなくて、2階の刑事部屋で待機している。刑事当直と呼んでいた。1階のお巡りさんたちとある程度懇意になると、「2階に行ってきます」と言って刑事部屋に上がるようになった。
刑事部屋は日中に行っても課長と庶務の係員しかいない。現場のデカさんたちはみな捜査で外に出ている。でも夜間に行くと当直のデカさんが必ず数人いるし、残務処理で残っているデカさんもいる。これは一線のデカさんと懇意になるチャンスだ。事件がなければ彼らも割とヒマで、結構相手にしてくれた。
ヤクザのようなデカ
その中に暴対(暴力団対策)のデカさんがいた。迫力満点の外見で、どっちがヤクザかわからない。でもすごく人当たりが良くて「おお、来たか。呑んでくか?」と一升瓶の日本酒を注いでくれた。これも今では考えられないだろうが、当時は刑事部屋で勤務後に酒を呑むのはざらで、私もよくお相伴にあずかった。さすがに当直中ではなく、たまたま部屋に残っていた時に一杯やりながら昔話を聞かせてもらった。
ある日、日中に刑事部屋で刑事課長と話していた。すると奥の留置場の方から顔見知りのデカさんが飛び出してきて「たんか! たんか!」と叫びながら、たんかを手に奥へ戻っていった。……これは何か起きたな。留置場で被疑者が自殺を図ったんじゃないか? 私は事態を見届けようと注視していた。すると課長が寄ってきて「あんた、ちょっと外に出てくれんか」と言ってきた。ここは相手の職場だし、普通なら遠慮して出ていく場面だ。だが私は刑事部屋に何度も出入りするうちに何となく馴染みの場所のような感覚に陥っていた。世間知らず丸出しでぶしつけに答えた。
「僕は動きませんよ。奥で何か起きたんでしょ。教えてくださいよ。それがわかるまで動きませんから」
この時、日中だが偶然、例の暴対のデカさんが部屋にいた。彼はまさにヤクザのような形相でつかつかと歩み寄ってきた。