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元祖“育成の星” 山田大樹が14年間で一度だけ起こした奇跡

文春野球コラム ウィンターリーグ2021

2021/02/15
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 スワローズ背番号34の長身左腕はまさしく「金田二世」だ。燕党たちも大いに期待をした。初年度は活躍できなかったが、2019年は14試合に登板うち11試合に先発して5勝4敗の成績を挙げた。しかし、昨季は2先発で2敗。契約更新はなかった。

「スワローズはみんなが仲良いチーム。3年しかいられなかったけど、温かかったです」

次の世代の役に……現役引退後の夢

 12月にトライアウトを受けた。打者3人に対してフライアウト1つ、奪三振1つ、与四球1つ。最速は142キロだった。いつもよりも速い真っ直ぐを投げていた。そういえば、奇跡を起こしたプロ3年目の150キロ超のストレートは、一軍では一度も見ることはなかった。むしろ軟投派の印象だ。

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「なぜあの時だけ、あんな球が投げられたのか。結局分からないままでした。野球の神様の仕業かもしれませんね(笑)」

©文藝春秋

 社会人やクラブチームから誘いの声があったが、「家族もいる。2人目の子どもが生まれたばかりだし、生活のことを考えると自分のワガママで野球は続けられない」と引退を決断した。

 サラリーマンを考えたが、妻から「向いてないよ」と言われて「そうだな(笑)」とあっさり納得した。野球選手だった自分。決して平坦な道ではなく、怪我もあった。トレーナーには何度もお世話になった。

 今度は自分が支える側になるのもいいかもしれない。次の夢のステージは鍼灸師だ。

 ホークス時代の先輩である馬原孝浩さんがすでに鍼灸師と柔道整復師の免許を取得している。同じくホークスの先輩である高橋秀聡さんに間に入ってもらい、馬原さんに相談をしたら「やるべきだよ」と背中を押してもらった。今後3年間は専門学校に通い、資格取得を目指すことになる。「並行してバイトをして生活費を稼ぎますよ」という声は明るかった。

「14年間、それもホークスとスワローズという2つのチームでプレーをさせてもらって、たくさんの人たちに出会えたし多くの経験をさせてもらいました。そして、2つのチームのファンの皆さんに応援もしてもらえた。最初のことがあるから、応援してもらえることはすごく力になりました。この場を借りて、皆さんに御礼を言わせてください。本当にありがとうございました。

 今後はまず資格を取るための勉強期間です。国家試験は3年後。今ビジョンはなかなか描けないけど、プロ野球の球団から声を掛けてもらってトレーナーになるというのも面白いなと思っています。次の世代の役に立てればいい。そんな夢を叶えるための、まずは3年間にしたいです」

 選手時代とは違った形で、プロ野球ファンの皆さんにも恩返しをしたい。山田さんはそう考えている。

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