「ゾクあがりのヤンキーが。調子に乗るな」
その店は別の組の直営店で、私の顔ならばたしかにつけにできました。しかし、それはあくまで私と彼らの信頼関係によるものです。さらに、つけにするのであれば、事前に伝えておくことが最低限の礼儀です。つまり詫びをいれたいと飲みに誘ったこの男がカネを持ち合わせていないことは許されないことでした。
とりあえずその場は皆でカネを出し合い、残りは月末に支払うと約束して店を後にしましたが、私の怒りは再燃していました。そして、エレベーターの扉が閉まると即座に男の腹を蹴りあげました。顔を狙わなかったのは、組長に許してやれと言われた手前、ぼこぼこにはできなかったからです。
不快な体験でしたが、それで終わるはずでした。ところが、事務所の若い衆が寝泊まりする部屋に戻ったときのことです。
男はしつこくぶつぶつと何かを言っており、そのうちの一言が私の耳に届きました。
「ゾクあがりのヤンキーが。調子に乗るな」
「どうせバレるなら一緒だ」
今度こそ顔面を殴りました。たくさん鼻血が吹き出し、床が汚れました。男を殴ったとき、私は逆上していましたが、血を目にしたことでむしろ冷静な思いが頭をよぎりました。
「こんなに出血したのでは組長たちにバレてしまう。どうせバレるのなら一緒だ」
木刀があったので男を何度も殴りました。
観光地に売っているような安物ではなく、しっかりとしたつくりのものでしたが、やがて折れてしまいました。
顔からの血は止まらず、床がさらに汚れてしまっていたので、私は「もう駄目かな」と思いました。そして舎弟に男の体を押さえさせ、事務所に走りました。そこには日本刀が美術品のようにショーケースに飾られています。ケースを割り、刀をもって戻りました。