この日の放送は、#検察庁法改正案に抗議しますに対し、全体的に冷ややかなムードでした。
同じくコメンテーターの指原莉乃さんが「ただツイッターとかで、今回ので言うと、簡単な、すごく簡単に記された相関図とかが載って、それが拡散されてここまで大きくなったと思うんですけど、本当にそれを信じていいのかとか、双方の話を聞かずに勉強せずに偏ったものだけ見て『え、そうなの、やばい、広めなきゃ』っていう人が多い感じがして、今」と発言したその後に、まさに指原さんのお株を奪うような、だりぃ世間(大人)に対してのカウンター。チャラ男芸人が芸能界椅子取りゲームもの言う若者部門優勝に輝いた瞬間でした。
そして興味深いことに、この時の指原さんの発言と、先日の兼近さんの発言は、びっくりするほど一致する。あの時「双方の話を聞かずに勉強せずに偏ったものだけ見て『え、そうなの、やばい、広めなきゃ』っていう人が多い感じがして」といった指原さんと、今「ただ誰かが言ってるから『え、こんなひどいこと言ってんだ?』っていう切り取りの文字を読んで攻撃してる人も俺たっくさんいるなって感じたんで」といった兼近さんが。
兼近は変わってしまったのか?
自分は白でも黒でもない安全地帯に身を置きつつ、論点を巧みにズラして我こそは「真の愚者」を突き止める唯一の「賢者」になる。変わっちまったなかねち、いやそれが芸能界に長くいるってことなのか……いやいや、私はそんなんじゃないと思います。
兼近さんは決して日和ったわけじゃないと思うんですよ。ただスーパーヒーローの視点では「世間がお年寄りをいじめてる」ように見えてしまったのではないでしょうか。それを救えるのは自分だけだと思ったのかもしれない。
兼近さんの目には、圧倒的な男性優位社会の中で、意見すれば「空気を読め」と疎まれ、権力者に従わなければ「わきまえてない」と弾かれ、年齢や容姿で評価され、入試の点数は自動的に減らされ、そもそも賃金は低く設定され、常に「誰かのために」生きろとやんわり強制されてきた「女性」の姿は、見えないのかもしれない。そして、弱きを助け、強きをくじくスーパーヒーローが「弱者」と認定しないくらい、そんな「女性」の姿は、ガチガチの構造的な差別のシステムにすんなりと組み込まれている。
私が今回の兼近発言で思わされたのは、女性差別というものがこれほどまでにある層の人たちには見えないものだという悲しい事実でした。それは社会にとってあまりにも「日常の風景」なのだと。
「(発言を)切り取る切り取らないもなにも、この発言に対してすごく残念だなって思いました。切り取るも何もないです」
そんな兼近発言を受けての、TBS系『サンデー・ジャポン』(2021年2月14日放送)。多くのコメンテーターたちが「マスコミが恣意的に行う言葉の切り取り批判」に寄せた意見を述べる中、こちら最後にコメントを求められたモデルの小山ティナさんの一言。スタジオは一瞬静まりかえりました。
ああこんな感じだった、あの日のワイドナショーも。いつかの“もの言う若者”を、次の若者が乗り越えていく。芸能界椅子取りゲームは、かくも厳しい。