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フェンス飛び越えトライアウトに乱入! プロ野球選手になった横浜国大卒業生の破天荒野球人生

文春野球コラム ウィンターリーグ2021「呼ばれてもいないのに海を渡った野球人」

2021/02/28

フェンスを飛び越え勝手にトライアウト参加

 いったん帰国して相模原クラブでプレーしたが、その後も海外でチャンスを求め続けた。アメリカ独立リーグのトライアウト(不合格)、オーストラリアのサマーリーグでプレーした。アメリカでは飛行機が墜落しそうになり死が頭をよぎったことや、オーストラリアでは持ち前の行動力が災いして国の代表にも選出されていた主力打者が打席に入っている際にホームスチールを敢行。「次やったら殺すぞ」と激昂されるなどもしたが、めげることは一切なかった。

 プロ契約の大きなチャンスが訪れたのは25歳の時だ。その年、発足したCBL(カナディアン・ベースボール・リーグ)のトライアウトに参加。通常2打席与えられる中、しれっと5打席立ってフェンス直撃の当たりを打ったり、盗塁を決めるなどして見事にスプリングトレーニング参加を勝ち取った。

 ついに念願のプロ契約も目の前だと思ったのも束の間だった。球団の手違いで航空券が来ずに「顔が似ていたらしい」という別の日本人選手がなぜかそこに参加。遅れてスプリングトレーニングに参加すると、ロースターは既にあらかた埋まっており結局契約を勝ち取れなかった。この時ばかりは清水も「初めてプロ契約を勝ち取ったかと思ったのにショックでした」と話すが、諦めきれずに翌日も球場へ向かった。

 当然グラウンドには入れてもらえずスタンドで観ていたが、対戦相手が試合前にしていたベースランニングにフェンスを越えて乱入。アップシューズを履いたジャージ姿でダイヤモンドを一周し俊足をアピールし「俺を入れてくれ」と頼んだ。その行動力と俊足を見たチーム関係者が「明日、リーグのコミッショナーが来るから頼んでみろよ」と言ってくれた。

 翌日、清水を不憫に思ったコミッショナーが同じCBLのサスカトゥーンレジェンズを紹介してくれた。そして受験し、またそのトライアウト後にファミリーレストランの駐車場で黙々と素振りをしていると、その姿を首脳陣が見かけて見事に合格。高校3年の夏に立てた「プロ野球選手になる」という思いを7年越しで叶えた。

「“できないと思うことに挑戦する”ということを習慣にしていただけです。それを続けていたらプロ契約を勝ち取れた。もうメチャクチャ嬉しかったですね」

 同時期にCBLの別球団でプレーした元NPBの選手たちと比べると3分の1ほどの月12万円ほどの給料だったが、観衆の前でプレーし打率も2割台中盤から後半を記録し、ホームスチールをここでも2度決め、大歓声を受けた。

 ただ、すぐにリーグの収支が悪化し2ヶ月ほどでシーズンは打ち切られてしまった。

2014年には米独立リーグでトレーナーも ©清水広貴

打算してもつまらない

 その後は再びオーストラリアのサマーリーグでプレーし、今度は北京五輪に向けて野球熱が高まっていた中国へ。現地に飛んで旅行ガイドを雇い、ネットカフェで情報を仕入れてから中国リーグの全チームに電話をかけた。

 その中で唯一外国人枠が空いていた四川ドラゴンズに加入。同リーグ初の日本人野手となった。そしてこのシーズンをもって27歳で現役を引退した。

 43歳となった今は鍼灸マッサージ師として独立している。カナダでともにプレーした中南米選手たちの身体能力に感服して以降、体についての興味が湧き探究心に火がついた。中国リーグで最後にプレーしたが、その頃にはもう野球より人体の仕組みや構造に1番の興味を持っていた。様々な人を施術する中で「理想の姿勢や骨盤の位置とは何なのか?」ということを研究し続けている。

 清水は今までただ己の「やりたい!」という気持ちに対して正直に行動してきた。世界各地で野球をしてきたことが「今に全部繋がっているんですよね」とも言う。

「体のことをこれだけ考えるきっかけになったのは海外で野球をしたからですからね。失敗したらどうしようとか、どう思われようとか考えてもつまらないじゃないですか。若いうちから打算しなかったのが僕にとっては良かったです。思いに対して忠実に生きた方が絶対に楽しいですよ」

 持ち前の行動力や興味を持ったことに突き進む姿勢は、グラウンドで白球を追いかけていた頃と何ら変わらず、今も挑戦の日々が続いている。

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