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本人が「敦也」で弟は「臣吾」…社会人ナンバーワン右腕・廣畑敦也がヤクルトに惹かれる理由

文春野球コラム ウィンターリーグ2021

2021/03/04
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ジャイアントキリングで一躍、ドラフト候補に

 倉敷オーシャンズは森唯斗(ソフトバンク)などを輩出したことで知られる岡山の社会人チームだが、2003年から2015年の間はクラブチーム登録だった過去もある。現在は三菱自動車がバックアップしているものの、野球部員はフルタイム勤務してから練習に励む。

 企業チームは午前中だけ勤務して午後から練習という野球部も多い。だが、倉敷オーシャンズの平日の全体練習は18時から1時間ほど。あとは勤務を終えた時間に応じて、個人練習をするしかない。

 廣畑自身は「野球に理解のある会社です」と胸を張るが、もっと条件や環境のいい企業チームは全国にたくさんある。

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 そんな廣畑が加入した倉敷オーシャンズが、昨年の都市対抗野球大会で大番狂わせを起こした。16年ぶりに東京ドームにやってきた倉敷オーシャンズの初戦は開幕戦に組まれ、しかも相手は前年度覇者のJFE東日本。主砲の今川優馬(現日本ハム)ら長打力のある打者を揃え、アマ屈指の強打線を売りにするチームだ。

「あれだけホームランを打てるバッターをバンバン並べられたら、打たれてもしょうがない。自分のいいボールを投げようと割り切っていたので、プレッシャーは全然ありませんでした」

 先発に起用された廣畑は、野球人生初の全国舞台で快刀乱麻の投球を披露する。9回を投げ切って被安打7、奪三振7、四死球2、失点1の完投勝利。一躍、翌年のドラフト候補へと浮上した試合になった。

 廣畑の投球を支えるのは、最高で2600回転を超える威力のある速球もさることながら、曲がり幅の大きなカーブにある。廣畑は独特な言葉で自信を口にする。

「僕のフォームはカーブに合わせて作ったものですし、しっかりと投げられる日なら真っすぐを投げなくてもいいんじゃないかと思うくらいです」

 変化量が大きいため大学時代はコントロールに苦労したが、社会人に入って「踏み込む際に左のお尻に負荷がかかるタイミングで投げればいいカーブになる」とコツをつかんだ。

 社会人2年目の今季はドラフト解禁になる。スカウト陣に注目されるだけでなく、ライバルチームからのマークも厳しくなるだろう。

 そんな廣畑にとって一つの試金石になるのが、3月8日から開幕するJABA東京スポニチ大会である。全国有数の社会人16チームが覇権を争う、春の一大イベントだ。

「今年初めての公式戦ですし、昨年以上の結果を出して勝利に貢献したいです」

 エースとしての自覚を滲ませる一方で、廣畑は密かに楽しみにしていることがあるという。

「9日と10日の試合会場は神宮球場なので、たぶん僕がチームで一番楽しみにしているはずです。できればブルペンのリリーフピッチャーが待機する場所に座ってみたいんですよねぇ。いつも観客席から見ていたので、グラウンドレベルから試合を見てみたいんです」

 好きな飲物はヤクルト……ではなく、コーヒー。エチオピア産の酸味の効いたコーヒーを豆から挽いて淹れる。コーヒー熱が高まり過ぎて、JAFA認定の資格「コーヒースペシャリスト」を取得したほどだ。はまるととことん追求するのは、コーヒーもピッチングも同じのようだ。

 無名の存在から一流投手への階段を駆け足で上がる速球派投手・廣畑敦也。彼以上に2年連続最下位に沈むヤクルトの浮上を祈るドラフト候補はいないはずだ。

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