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人生三度目の“愛のムチ”

 仙一様は僕の声に気づくと、過去2回と同じ様にキッとした表情で僕を一睨みした。しかし一瞬フッと優しい眼差しに変わり、

「やるかやらんかは俺が決めるんだ(バカヤロー!)」 ※バカヤロー! は言われてないのかも知れない

 と僕に言い、颯爽とクラブハウスの中に入っていった。

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2001年オフに阪神の監督に就任した星野仙一 ©文藝春秋

 この時、僕は仙一様が阪神の監督を引き受ける事を悟った。それはどのくらい辛い事なのか? タテジマに袖を通す時、仙一様を直視できるのか? 想像する事も出来ず放心状態になりボーッとしていると、ゆっくり大男が近づいてきて、「センちゃんさー、もう決めちゃったみたいだよ。応援してやってよ」と言うと、僕が持っていたスケッチブックに「田淵幸一」とサインをしてくれた。

 辛い現実に直面した事と、見ず知らずの素人に声をかけてくれた田淵さんの優しさに目頭が熱くなり深々と頭を下げた。

「自分の人生は自分で決める」

 よく聞くフレーズではあるが、改めてこの事を仙一様に教わった。そしてその後の仙一様の活躍を目の当たりにし、信念が入った決断は必ず成功をもたらす事も確信した。

 一方、わがドラゴンズも仙一様が阪神での役目を終えると、入れ替わる様に落合監督が誕生。球団史上最高の黄金期を作ってくれた。これも仙一様が一次政権時代に落合氏を獲得してくれたからであると思っている。

 もう一度言います。私の人生、大事なことは仙一様に教わってきた。今でも心の底から感謝しているが、前編のコラムを世に出させて頂いた後、気になっていることがある。

 僕のファン歴始まって以来の最大の低迷が続くドラゴンズ……最近仙一様はこの状態をどう思っているのかな? と、思う時があるのだが、思いが通じたのか今年ナゴヤドームでのオールスターの際、試合前に仙一様が野球殿堂入りの表彰挨拶を終え、ドラゴンズファンに向けてメッセージを送るシーンがあった。

「中日ファンに小言を言いたい。こんなにいっぱいのナゴヤドームは最近、見たことがない。もっともっとドラゴンズを応援してください。甲子園も、仙台のコボスタもいつも満員ですよ。ここだけガラガラ。皆さん、ドラゴンズを応援してあげてください」

 はっきり言って悲しかった。不人気の矛先は少なくとも我々ではない。ましてや今日球場に来ているファンへの言葉としては適切ではない。仙一様一流の言い回しで、本音はファンに向けての言葉ではないかもしれないが、大いなる違和感を覚え、遠くへ行ってしまった仙一様が更に遠のいていった気がした。

 この場を借りて仙一様に一言言いたい!

「仙一様、お言葉ですが勝っても負けてもあなたを応援し続けてきた我々に対し、ナゴヤドームでの挨拶はあんまりだ! これからはファンがドラゴンズを変えていくからよく見とけ バ、バ、バ、バ、、バンスロー! は、いい外国人でしたね仙一さまぁ〜」

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/4402 でHITボタンを押してください。