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「TRICK」とは

 本書に描かれているとおり、グーグルは長女のスーザンが住んでいた家で生まれた。スーザンが住宅ローンの支払いの足しにと、セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジにガレージを貸し出したのがきっかけだ。実はその後、三女のアンとセルゲイは結婚し子供をもうけることになる(その後離婚している)。ある意味で、グーグルを生み出し育てた功績の一部は、ウォジスキー家にあるとも言える。

 エスター・ウォジスキー自身は、地元パロアルト高校の名物教師だった。貧しいユダヤ系移民の二世としてアメリカで育ち、苦労して大学を出たあと、当時男性しかいなかったジャーナリズムの世界に入り、結婚後は高校でジャーナリズムを教えた。公立のパロアルト高校にジャーナリズムのプログラムを開き、高校新聞を含むメディアを生徒に運営させた。授業にいち早くテクノロジーを取り入れたのもエスターである。3人の娘が有名になる前から、エスターが運営するジャーナリズムのプログラムから優秀な学生が世界で活躍していたことから、彼女の教授法は話題になり、カリフォルニア州の最優秀教師にも選ばれている。

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 そのエスターの教え方の核になっているのがトリック(TRICK)の価値観である。トリックとは、トラスト(信頼)、リスペクト(尊重)、インディペンデンス(自立)、コラボレーション(協力)、そしてカインドネス(優しさ)の頭文字をつなげた言葉だ。この価値観を実践することはつまり、子供も親も自身とお互いを信頼し、尊重し、お互いが自立できるように行動し、力を合わせ、いいところも悪いところも受け入れて寛容に接していくということだ。そうすることで、冒険心があり、逆境において打たれ強い人格が形成される。すなわち、謙虚さと大胆さを持ち合わせた真のイノベーターが生み出される。