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 ただ、この『ミッドナイトスワン』の撮影で、彼は役柄を演じる仕事を始めてから体験したことのなかった感覚に囚われたという。

© ​2020 Midnight Swan Film Partners

「考えて演じるのをやめようと思ったんです。何も考えず、セリフ忘れちゃったらそれでいいや、ぐらいの気持ちでやってました。相手の目を見て、それでセリフが出てきたら言おうって」

 実は、クランクインの直前まで、彼はまったく正反対のことを考えていたという。

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「久しぶりの映画だし、台本を読んですごく難しい役だってこともわかってる。ここはひとつ、イイところ、カッコイイところを見せちゃおうかなって。こういう役を演じきれたら、またみんなから褒められちゃったりするのかな、とか妄想したりね」

 だが、新宿で始まった最初の撮影で、考えは変わった。ねじ曲げられた。

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文藝春秋電子書籍編集部 ,みなもと 忠之

文藝春秋

2020年9月25日 発売