3月30日の対ライオンズ戦、NHK札幌の中継は田中賢介・森本稀哲のW解説でした。この組み合わせは特別です。同時に1軍で頭角をあらわした1・2番の名コンビ、年齢も近くて親しい間柄。たとえば田中賢介が、昔は「3打席目までが勝負だと思っていました」なんて言うんですね。3打席目までに打てなかったら次のチャンスはないと思っていたと。おおこれが1軍に定着しようと必死な若い選手の危機感というものか、と感慨にふける間もあらばこそ、森本稀哲が突っ込むんです。「えっ僕は2打席目までだと思ってましたよ!」って。掛け合いも息ぴったり。
「レギュラーの才能がある」「恐ろしい3年目」
こんな2人が揃って絶賛していたのが野村佑希でありました。彼はこの日4打数2安打だったのですが、最初の2打席はチャンスでファウルフライなど打ってしまったりしてぱっとしなかったのです。そのまま終わってもおかしくないところをちゃんと立て直してきて2安打した、これは「レギュラーの結果の残し方ですよね」と田中賢介は言う訳です。「恐ろしい3年目ですね」という言葉も出ました。「腰の開きで清宮選手がここ何年か苦しんでますけれども、僕は野村選手も同じところを通ると思ったんですよ。でも軽々と通り抜けて行きましたからねえ」とは森本稀哲の弁。
ファイターズの先輩であるOB解説者から若い選手が褒められているのは嬉しいものですが、
「レギュラーの才能があると思います」
という田中賢介の言い方が印象に残りました。もうレギュラーですね、ではないんです。このとき開幕から4試合目、ずっとサードのスタメンで出ていて出塁も毎試合、打順も3試合目からは何と5番になりました。這えば立て、立てば歩めのファンごころ、よしサードのレギュラーを掴んだなとせっかちに思いたくなってしまうのですが、大先輩は冷静なもの。レギュラーの才能がある恐ろしい3年目、とはつまり、ブレイクしかかっているのは確かであるもののまだ本当にブレイクはしていないということ。えのきど監督風に言えばまだまだまだまだ「ワカゾー」なのです。
とは重々理解しつつもオープン戦からコンスタントに打ち続けていれば、ファンの期待はやっぱり膨らむ一方なんですよね。試合中のツイートなど見れば「野村の前にランナーをためよう」と言われている訳で、もう普通に主力選手の扱いです。私事で恐縮ですがかく申す私の老父なども、3月31日の試合で満塁機での凡退を2回続けてやらかした彼がようやくヒットを打った時の反応は、「さっき打て!」でありました。「おお今日もまた打ったか」とはならないんです。高卒で入団して3年目のシーズンが始まったばかり、6月が誕生日なのでまだ20歳。それがもう中田翔や大田泰示を見るような目でファンからは見られるようになってきている。
「ほんとなら2020年シーズンのうちにもう完全ブレイクしていた筈だったのに」という感じがあるんですよね。去年7月のえのきど監督コラム「目の覚めるような野村佑希の活躍を、僕らは忘れないようにしよう」にもあった通り、遅れに遅れた6月の開幕から僅か1箇月足らず、骨折で3箇月もの離脱を余儀なくされた訳です。1軍に戻ってきたのはシーズンが終わる寸前でした。とにもかくにも離脱したままシーズン終了ということだけはしない、かろうじて最後だけには間に合ったという感じか……と思っていたら11月1日のホーム最終戦で4打数2安打4打点の大暴れ。ファンの心に「これは来年の活躍が楽しみだ」と「ああ今更ながらあの怪我さえなければ」とを交錯させたのでありました。