打率.224。ホームラン5本。打点11。

 ホームランはサンズ、マルテの6本につづくチーム2番目の多さ。いうまでもなく、ルーキー佐藤輝明選手の成績である(2021/04/23 時点)。阪神の新人では、3、4月の最多ホームラン数を更新した。

 三振の数(36はリーグダントツトップ)や打率の低さを指摘する向きもあろうが、新人選手としては「立派」というほかない。なにより佐藤選手が加入したことで、チーム全体が活気づいている。貯金は11を数え、2位巨人とは3ゲーム差、今シーズンの阪神タイガースは見事な快進撃をつづけている。その理由のひとつに、1番近本、2番糸原、3番マルテ、4番大山、5番サンズ、6番佐藤、7番梅野、と開幕から不動のオーダーを組めていることが間違いなくある。そこにもう一人のルーキー中野拓夢選手が8番(ショート)で活躍しだした。日替わりのように打順と選手が変わった、昨年とは大違いだ。盤石のレギュラー陣と言えるだろう。

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 しかし、こと佐藤に関して言えば、開幕から1カ月のあいだ、ずっと盤石だったわけではない。佐藤は一度だけレギュラーを外れた。京セラドームで行われた4月4日の対中日戦。中日の左腕・小笠原投手の先発の試合に、6番ライトで出場したのは右の陽川尚将選手だった。その日、代打で1打席出場した佐藤の打率は.129となる。開幕以来、内角高め、そしてストライクゾーンから低めに外れるボール球をことごとく空振りする有様だった。解説者たちも「これがオープン戦と一軍の違い」と口をそろえた。私もまた、言わんこっちゃない、と思った。前回、阪神優勝には高山俊選手の復活が欠かせないと予想していた、と書いたが、「だから高山を一軍に置いとかな」と内心、舌打ちをした。高山を二軍スタートにしたツケが早くもきた、と思ったのだった。

 その次の試合から佐藤はスタメン復帰した。が、レギュラーであるにはかなり危うい位置にいたのは確かだ。あのまま打率が1割を切っていれば、矢野監督といえども、「期待」を理由にポジションを与えつづけることは困難になっていただろう。

藤浪晋太郎と佐藤輝明、二人が交差した瞬間

 だが、風向きはいっきに変わる。いや、自ら変えた、と言うほうが正確だろう。

 4月9日、横浜スタジアムでの対ベイスターズ戦だ。初回に3点先制したものの、それからは得点を得られないまま迎えた6回表、投手が先発の濱口から国吉へと変わる。直後の3球目だった。佐藤選手の振り抜いたバットはボールを芯でとらえる。カンッと乾いた響きを残し打球はすごいスピードで伸びていき、ライトスタンド上段を悠々と飛び越えた。場外ホームラン。映像で見たとき、おもわず「うわ」と口をついてしまった。圧巻だった。「漫画みたいや」「漫画みたいや」と何度も心中つぶやいた。

場外本塁打の佐藤輝明を迎える藤浪晋太郎

 あの一本は、芽生えつつあった異論、反論を完全封じするのに十分だった。おそらく、チームメイトも納得したのではないだろうか。「あんなホームラン、俺には打てない」と。もちろん、私の脳内にあった「佐藤―高山交代説」も吹き飛ばされた。

 結局、その一本が打線に火を点け、その回タイガースは、一挙に6点をあげる。そして、阪神の先発、藤浪晋太郎投手に今シーズンの初勝利がつく。

 藤浪は、一昨年は0勝、昨年は1勝止まり。にもかかわらず、という接続詞を戦績だけ見れば使わざるを得ないが、今シーズンの開幕投手を任される。昨年の終盤の復調、その「勢い」を買われての抜擢だった。ところが、この日まで白星はつかず。開幕戦、1週間後の2戦目ともに勝利投手の権利を持って降板したものの、リリーフが打たれ、勝利はこぼれ落ちてしまう。ルーキー石井大智投手、ソフトバンクから移籍した加治屋蓮投手、ともに新戦力の二人が打たれての結果だった。

 好投するものの勝てない……。こうした嫌な流れになってしまわないためにも、藤浪にとって、この日の勝利は使命と言っていいほど大きなものだった。そしてこの日の試合を決定づける一打を放ったのが佐藤だったわけだ。試合後のヒーローインタビューで藤浪は佐藤の場外ホームランのことを訊かれ、「ちょっと引きましたね。さすがに」と冗談まじりに答えた。鳴り物入りでドラ1入団した二人、大きな身体をもつ二人、規格外の投球と打球を放つ二人が交差した瞬間だった。