十分にケイタへのいじめの証拠が集まったところで、阿部氏は報告書を作成。母親に付き添って学校に提出した。だが、学校側は仕事を増やしたくないためか、まともに取り合わないことが多い。その時も中年女性の校長は、こう言った。
「元気がないのは、家庭環境が原因かもしれない。そもそも、子供同士でいざこざが起きることはありますよ。社会に出てからも人間関係がうまくいかないことはいくらでもあるので、ちゃんと乗り越えないと」
問題に向き合おうとせず、トンチンカンなことを言ってくる教師は少なくない。そこで阿部氏はあえて思いっきり大きな声を出して、ケイタのいじめの証拠となる報告書を読み上げた。腹から声を出して読み続けていると、だんだん喉がキツくなってきたが、異様な雰囲気によって明らかに教師たちの表情が変わった。
動揺し、お茶を飲む手が震える者もいた。非常識に思えるかもしれないが、こうした手段を取らないと、教師たちは動かないのだ。
奇策を打ってトドメを刺す
後日、加害者たちに指導が行われたが、まったく反省していない様子だった。主犯格の親は「うちの子がいじめの濡れ衣を着せられた。こっちのほうがいじめられている」と逆ギレし、周囲にそう吹聴していた。
それでも、形ばかりの「謝罪の会」が開かれることになり、昼休みの時間を使い、被害者であるケイタ、加害者の双方の親と子供が集められた。しかし、加害親子には反省の色は見えず、彼らはこう言った。
“いじめられたって言っている子にも悪いところがあったから、これはお互いさまだね”
“いじめたつもりは全然ないけど、いじめって思わせちゃったみたいでゴメンね”
こうなることを予想していた阿部氏は、事前に策を講じていた。「謝罪の会」が開かれるのは視聴覚室の隣だったので、放送機器をうまく操作すれば、会の様子を全校中に流すことができると考えたのだ。