いじめの実態を知るためにケイタの数人の友人からも聞き取りをしていた阿部氏。視聴覚室で一緒に「謝罪の会」の様子を聞いていたその友人たちにこう言った。
「これ、マイク置いておいたら放送できちゃうんじゃないの?」
まったく悪びれない加害者の様子に怒りを感じていたケイタの友人も乗り気になった。急いで「謝罪の会」の教室に、放送室からコードを延ばしてマイクを設置。放送のスイッチをオンにすると、放送室に鍵をかけて別の教室へと移動した。
加害者親子の本音が校内に露呈した意味は大きかった
“うちの子だけが一方的に悪いとは思っていませんよ!”
“ケイタって、どこかいじめたくなる気持ちにさせるんです”
まったく謝罪する気などなく、自分の行為を正当化するばかりの加害者親子の声が筒抜けになってスピーカーから流れ始めると、学校全体がざわついてパニック状態になった。
「出てきなさい! ドアを開けなさい!」
教師は声を張り上げてドンドンと放送室のドアを叩いたが、なかには誰もいない。十円玉で開けられる簡易式の鍵だったので、間もなくドアは開けられてスイッチが切られた。だが、ほんのわずかな時間でも、加害者親子の本音が校内に露呈した意味は大きかった。
主犯格の生徒はその後、転校。いじめは完全に終結したというが、阿部氏はこのケースをこう振り返る。
「今思うと、全校放送はやり過ぎだったかもしれません……。ただ、そうでもしなければ加害者親子が自分たちがやったことの酷さを理解できなかったのは、残念ながら紛れもない事実です。とはいえ、私もさまざまな事例を経験してきて、もっと違うやり方で加害者に反省させる方法が今ならあると思っています」
(取材・構成:西谷格)