浮気調査や人探しといった本業のかたわら、子供たちの「いじめ調査」を続けているT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚氏。年間約500件もの相談を受けて、いじめ事件の解決に奔走するうちに、いつしか「いじめ探偵」と呼ばれるようになった。これまでに阿部氏が手がけた事件の中から、とくに印象的だった事例について話を聞いた(プライバシーの観点から仮名にして一部フィクションを交えています)。

 阿部氏が原案・シナリオ協力をつとめる漫画『いじめ探偵』(漫画・榎屋克優)が現在、WEB漫画サイト「やわらかスピリッツ」にて連載中。

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歓迎会の空気が一変

「あの、最初にお伺いしたいのですが、ここは相談を聞くだけのところですか?」

 電話の相手は、中学1年の娘ユキ(13歳・仮名)の母親。シングルマザーで、仕事の都合で都会から地方へと引っ越したばかりだという。すでに行政が設置しているいじめ相談の窓口に、何度も電話をかけたあとのようだ。いくら娘の窮状を訴えても、話を聞くだけで何もしてくれない。そんな失望感を抱いているようだった。

「いや、私はいじめの証拠集めをして解決を目指している人間です。心の相談でしたら、他を当たってください」

 阿部氏がそう答えると、母親は安心した様子で娘本人に電話を替わった。その後、詳しく話を聞くため、自宅を訪れた。いじめ被害を受けていたユキは、小顔のモデル体型で、垢抜けた雰囲気。都会育ちの大人びた彼女は、ジャージ登校が当たり前の田舎の学校の環境には、すぐには溶け込めなかったようだ。

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 被害者が住んでいたのは、非常に閉鎖的な土地だった。隣近所の距離が極めて近く、昼間はカギを開けておくのが当たり前。近所の人は「こんにちはー」と言いながら、無断で居間まであがってくることもあるような土地柄だ。実際、阿部氏が横浜ナンバーのマイカーで被害者の自宅を訪ねた際も、訪問中に近所の人がいきなり居間にあがってきて、「横浜に親戚でもいるの?」と聞いてきた。