懐柔しながら証拠を入手
阿部氏は店まで付き添い、商品を返却させた。だが、店主から注意を受けている間も仲間からのメッセージや電話が届き、そのたびに女子生徒はスマホをいじり続けた。
「お前の起こした問題でついて来ているんだろ! これ、預かるから」
そう言ってスマホを取り上げると、阿部氏は受話器に向かってこう叫んだ。
「お前ら、どこにいるんだ! すぐ戻って来い!」
以後、電話が鳴ることはなかった。自分のために店主に頭を下げ、悪いことをしたら本気で叱る阿部氏の姿を見て、女子生徒は少しずつ素直な態度を見せるようになった。
「この中身は必要だから、見せてもらうよ」
そう言って、阿部氏は女子生徒のLINEの履歴を確認した。“ユキを愛でる会”というグループチャットで、いじめの作戦会議が行われており、それが決定的な証拠となった。ただ、阿部氏の側に情報提供をした女子生徒は、怯えた様子でこう言った。
「仲間たちに裏切りがバレたら、今度はこっちがやられる。どうしよう……」
阿部氏はすぐに知恵を働かせた。
「『万引きしたものは捨ててきた。なんとか逃げ切ったけど、スマホを取り上げられた』って言えばいいよ」
相手に逃げ道を残すことで、証拠を確実に手に入れた。凡庸な学校教師には、こうして機転を効かせたり、踏み込んだ対応を取ったりすることができないのかもしれない。阿部氏はいじめの証拠を報告書としても文書にまとめ、学校に提出。
「証拠を突きつけることで、ようやく学校が動きましたが……被害生徒の心の傷は癒えることはなく、結局転校を余儀なくされました」
現在、ユキは別の地域で新たな生活を送っているというが、そんな結末になる前にいじめ解決のための手立てが打てなかったかと、いまだに阿部氏の心残りがあるケースだという。
(取材・構成:西谷格)