転校初日、ユキはクラスメイトから歓迎会に誘われた。6~7人の女子とともに友人の家を訪れ、ジュースやお菓子を食べながらお互いに自己紹介した。友好的なムードを感じ、「ここなら馴染めるかも」とほっとした。だが、会話が進むにつれて、違和感を覚えた。
「ユキって、なんでお父さんいないの?」
「お母さん給料いくらもらってるの? 生活大丈夫?」
田舎特有の距離感の近さなのだろうか。プライベートに踏み込み過ぎだと感じた。
「その服、かわいいね。ちょっと貸してよ」
そう言われてジャケットを貸すと、セーターも着たいとせがまれた。だが、セーターの下は肌着だ。そう言って断ると、気まずい空気が流れ、相手の態度が一変した。
「ちょっと、調子乗らないでよね! いいから貸してよ!」
ふざけ半分ではあったが、全員から身体を押さえつけられ、セーターと肌着を胸元までまくりあげられた。写真まで撮られた。「ごめん、先に帰るね」。恐ろしくなって、ユキはそのまま走って自宅に逃げ帰った。
加害グループを尾行
その後、いじめが始まった。放課後や休日になると、クラスメイトたちは「お邪魔しまーす」と言って無断で自宅の部屋まであがってきた。そのたびに、文房具やコスメ類といった小物がなくなった。“首絞めゲーム”と称して、気絶しそうになるまで首を絞められたこともあった。
LINEのグループチャットには入れてもらえず、学校では無視をされたり持ち物を捨てられたりした。ユキは精神的にむしばまれて、二の腕を自傷するようになり、夏にはバスタオルを使って、自室で自殺未遂した。母親が阿部氏に相談の電話をしたのは、この直後だった。
阿部氏は調査を進め、加害者グループが放課後にショッピングモールのフードコートで集まっている場面を目撃。尾行を続けると、彼女たちは店内で万引きを始めた。看過できずに声をかけると、女子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げたが、一人だけ逃げ遅れた子がいた。阿部氏が強い言葉で呼び止めると、観念した様子で立ち止まった。
「盗んだもの、どうする?」
「お金払いますよ」
「いや、一緒に店まで返しにいこう」