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脚本家の倉本聰が黒板五郎で描きたかったこと

 では、みどりは立派な大人かと言えば生活はルーズで、そのあとギャンブルでつくった借金を五郎に背負わせてしまうほどの人物である。でもそういう人の言葉だから響いてしまう。

 五郎だって後ろめたさは十分に抱えていたはず。でも、でも、そう振舞ってしまう。理屈ではおさえきれない自分の気持ちが出てしまう。自分のせこさに嫌になりながら。

いしだあゆみ演じる令子(中央) ©文藝春秋

 五郎を叱るのは正論である。周囲が奥さんに子ども達を会わせてやれよというのは当然である。しかし五郎の心の弱さやどうしようもない葛藤は無視してしまっていた。私もハッとした。

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 言われてみれば誰もが「理屈にならない気持ち」は持っている。自分が悪いというのはわかりつつ、でもこだわってしまうことだってある。そんな多重でめんどくさくてスッキリ割り切れない心情をこのシーンは描いていた。ついつい、わかりやすさに慣れてしまう今こそ見て良かったと痛感した。

田中邦衛(左)と倉本聰(右) ©文藝春秋

 田中邦衛さんの死去を受けて脚本を書いた倉本聰氏は次のようにコメントしている。

・『北の国から』の黒板五郎で描きたかったのは真面目にやればやるほど矛盾が生じる男の情けなさ。

 

・必死の人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇というチャプリンの言葉があるが、邦さんの芝居はその意味でまさに喜劇。悲劇的なシチュエーションに置くほど喜劇になる。とても貴重な俳優だった。

 ああ、倉本聰のいじわる。情けない黒板五郎は情けなさすぎて視聴者に己の矛盾も思い出させた。昭和だけなんてもったいない。やっぱり『北の国から』を2021年に見るのはおススメです。