ファンの夢のために存在していた試合
それからもう一つ、あぁ、最後なんだなと思わせたシーンがあった。中田翔がファウルボールを追いかけ、エキサイトシートのフェンスに乗り上がったのだ。それも一度ならずだ。何としてもアウトをもぎ取って、きれいに送り出してやりたい。中田は純な男だ。これも会話に思えた。これまでありがとうなと中田は言っていた。
スタンドのファンはランナーを出したりすると「がんばれ大谷〜」「がんばれがんばれ〜」と小学校の運動会みたいに声援を送る。3ボールをつくってしまうと(札幌ドームの名物なのだが)いっしょうけんめい拍手して励ます。大谷が160キロを出すような超越的な存在でもあんまり関係ないんだ。僕はそんな札幌のファンが大好きだ。がんばれ大谷、がんばれがんばれ大谷。
で、気がついた。この試合は今季初めてファンのためだけに存在している。大谷登板試合はずっと本人の復調を見るためや、あるいは大リーグの「品評会」といった具合に、つまり何というか内向きの構造だった。それがこの最後の最後で、ついにファンの夢のために存在している。「エースで4番」だ。マンガを超えた現実が見られた。投球数を気にせず9回10奪三振完封だ。金子千尋攻略の口火を切るクリーンヒットだ。
「一日でも多く野球をやっていたい。一日一日を大事にしながら、今できないことをできるようになりたい」(試合後のコメント)
僕も3万9千人強の観客のひとりとして、この日の大谷翔平を見つめた。豆粒大だったが、自分なりのお別れはできた。さようなら大谷翔平! さようなら僕たちの夢! ありがとう、どこに行っても応援している。
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